映画『OH LUCY!』
平柳敦子監督インタビュー

英会話の講師ジョン(ジョシュ・ハートネット)とOL・節子(寺島しのぶ)。

 フランス風に言えば「メトロ、ブロ、ドド(地下鉄、仕事、睡眠)」。それが、東京で暮らすアラフォーの独身OL・節子(寺島しのぶ)の日常だ。ある日、姪っ子から頼まれ、英会話教室に参加する。そこで待ちうけていたのは、アメリカ人講師ジョン(ジョシュ・ハートネット)。一風変わったアメリカンな授業で、節子は金髪のカツラをかぶり、「ルーシー」になりきるはめに。彼女の中で、何かが弾けた瞬間だ。やがてジョンを追い、節子も日本を後にする……。

 監督はサンフランシスコ在住の平柳敦子。第67回カンヌ映画祭シネフォンダシオン部門(学生部門)で二席に入った同名の短編を長編化し、昨年の第70回カンヌ映画祭で批評家週間に出品したコメディ・ドラマだ。ハリウッド俳優であるジョッシュ・ハートネットの好演も話題。フランスでは1月31日から劇場公開される。海外で活躍する眩しい日本人女性の才能を見届けよう。(瑞)

 

平柳敦子監督。2017年カンヌ映画祭にて。

―なぜこの物語を撮りたかったのでしょう。

 それはわからない、ミステリーです。(映画の大学の)課題で、100だか75個だかのアイデアを四週間で書くというのがあり、その中のひとつが、「自分の知っている人や身近な人について書け」というものでした。

その1年後、卒業制作を考えている時に、アイデアを見て一番ピンときたのが、このアイデアだったんです。要するに、OLが英語のクラスを取って、突然変わってしまう、新しい自分になってしまうみたいな。これは書けそうだと思ったので、それから始まりました。その時の自分の心境に合っていたので、惹かれたのでしょう。

―3年前にシネフォンダシオン部門(学生部門)で受賞し、その後、大きな企画になってカンヌに戻ってきました。この3年間の自分を振り返ってどう思いますか。

 凄いですよね、どうやってそうなったんでしょうねと思います。今でも信じられないです。長編を作ったからといって(カンヌに)入れるわけではないし。でも「作りたい」という意志を持っていた延長線上に、カンヌがありました。

―日本とアメリカの共同製作とのことですが、平柳監督が最初にやりたかったことは突き通せたのでしょうか。制作の自由はありましたか。

 ある意味、自由だったかもしれないです。日本では監督がファイナルカット(最終編集権)の権利を持っているのは当たり前ですが、私のエージェントからは、「アメリカではコーエン兄弟でもその権利はない」と言われました。でも今回、フォイナルカットの権利を頂けました。みなさんの支えがあったから、「私のプロジェクトだから私のビジョンで」と、突き通せたのかもしれません。自分がプロデューサーとして入っていたことも関係があると思います。

―俳優の選択も自由にできましたか。

 はい、でもキャスティングについては、(共同製作の)NHKさんにすごく助けてもらいました。名が知れない新人監督なので、交渉とかは難しいじゃないですか。NHKさんが紹介してくださった寺島さんが、すごく脚本を気に入ってくれて、お会いして意気投合して、やりましょうと。

役所広司、ジョシュ・ハートネット、寺島しのぶの豪華キャスト。

―ジョシュ・ハートネットの起用については。

 ジョシュと私は同じエージェンシーなので、「ジョシュはどうか」と聞かれました。その前から、彼は候補のひとりではあったのですが、あまりにスターなので、手が届かない存在だと思っていたんです。でもなぜかそういう話になって、「じゃあ呼んでいただきたいです」と言ったら、ロケハンの途中に、ジョシュから電話がかかってきました。

彼と15分間くらい話をして、「どうしたらあなたに“イエス”と言ってもらえるの?」と言ったら、「僕はイエスだよ、だから電話してるんだよ」と。彼は、私が思っている以上にキャラクターのことを追求してくれて、ジョンというキャラクターを、すごくリッチに肉を付けてくれました。

―ストーリーはご自身の留学の体験も反映されていますか。

 自分の経験も入っていると思います。発音矯正のクラスを取らされた時に、ワインのコルクを口に入れさせられて、シェクスピアのソネットを読まなければならなったのです。それが映画の中では、ピンポンボールになっています。

―アメリカで映画制作を学ばれたということですが。

 実は私は俳優を目指して一生懸命やっていました。でも映画作りを始めて気がついたのですが、俳優業は全然好きじゃなかったのです。アメリカの大学院に行ったことで、いかに映画作りが大好きかに気がつきました。

 二十代は自分の理想と現実を一生懸命つなげようと頑張っていくじゃないですか。私の小さい頃を振り返ると、ストーリーテリングが好きで、漫画を描いたり、学校の演劇を書いて演出をしたりと、そっちの方が楽しかった。最終的になぜか知らないけれど、「40歳になったら監督になりたい」というのは、最初からあったのです。でも「40歳までは俳優で頑張ろう」と思っていました。  

でも出産して子供の目を見た時に、やっぱり凄いピュアな目で。「自分がその目をしっかり見返せるような人間になりたい」と思ったんです。それで、自分が本当にやりたいことをやろうと。なんで40になるまで待たなければならないんだと。そういうことがきっかけで、ニューヨーク大学にアプライ(志願)しました。31の時です。それで今は41なので、結果的にだいたい同じ歳です。面白いです。

2月5日(月)19h−   Cinemathèque Francaise のショートフィルムの上映イベントでは、『Oh! Lucy』長編のベースとなった短編『Oh! Lucy』が上映されます。桃井かおりが主演し、第67回カンヌ映画祭シネフォンダシオン部門(学生部門)で二席に入った作品です。ほかにも今、活躍する日本人監督の4作品も上映されます。どうぞお見逃しなく!