パリのリヨン駅を出たころは小雨だったのが、TGVがカンヌに近づくにつれ車内もあたたかくなってきた。ふと気がつけば窓の外は青空。サン・ラファエルあたりになると、赤い岩と海の風景がひろがった。カンヌの駅を出ると半袖で歩いている人たちもいて、南フランスに来たことを実感します。
今回はカンヌを中心に、近くのビオット、ヴァロリス、ムージャン、ヴァンス、サン・ポール・ド・ヴァンス、ムアン・サルトゥーなどの小さな町をまわる、美術三昧の小旅行。コートダジュールといえばマティスやシャガール美術館のようなとても有名なものもありますが、今回は、少々アートオタク的なスポットも旅に加えてみました。
今日の世相を反映するような、オープンしたての女性芸術家に特化した美術館や、現代美術を扱いながら子どもから大人までを惹きつける美術館。個人のアートコレクションを宿泊客に披露してくれる小さな村のホテルには、高名な芸術家たちと村人が集った幸せな時が今も流れています。
それぞれの場所でアート愛と情熱に突き動かされて活動する人たちの姿も印象的です。この冬、ひとあじ違うコートダジュールの魅力を感じる旅に出かけませんか。(集)
Nous tenons à remercier le CRT Côte d’Azur France Tourisme et l’ensemble
des personnes qui nous ont accueillis chaleureusement durant notre voyage
構成・編集部 / 文・羽生のり子
Biot (ビオット)
レジェの芸術家人生が詰まった、国立レジェ美術館。
海と、ビオット(Biot) の旧市街のあいだに国立フェルナン・レジェ美術館がある。フェルナン・レジェ(1881-1955)は1949年にビオットで陶芸を始め、53年に家を購入した。彼の死後、妻で画家のナディアと、彼の弟子でレジェの死後ナディアの夫となったジョルジュ・ボキエが1960年に設立したのがこの美術館だ。69年に土地ごと国に寄付し、国立美術館となった。
レジェは若い頃はパリのアトリエ集合体 「ラ・リュッシュ」に住み、モディリアニらと仲間だった。その後キュビスムを始めたが、次第に黒の輪郭線と鮮やかな色彩を使った独自のグラフィックな作風を確立し、20世紀の産業を象徴する機械や都市で生活する人々をテーマに、絵画だけでなく陶芸、ガラス、壁画、版画など多くの媒体を使って創作した。
2月16日まで開催中の 「レジェとヌーヴォー・レアリスム」展では、レジェの作品の横に60年代の芸術運動の作品を置き、機械文明をポジティブに取り上げたレジェと、その後の大量消費時代を批判も加えて作品に反映させた世代の繋がりを見せている、レジェを新しい視点で捉えることができる企画展だ。
◉ Musée national Fernand Léger 国立フェルナン・レジェ美術館:
255 chemin du Val de Pôme 06410 Biot
火休、 水-月 10h-17h (11〜4月。他の時期の開館時間はサイト参照)。1/1、5/1と12/25休館。
7.5€ / 6€ / 第一日曜無料。
musees-nationaux-alpesmaritimes.fr/fleger/
3/15〜11/30まではレジェと色彩をテーマに、所蔵作品で構成される展覧会を開催。
〈ビオット〉美術品鑑賞もたのしい、ビオットの名物ホテル。
Hôtel-restaurant Les Arcades(オテル・レストラン・レザルカード)
ビオット旧市街にある「レザルカード」ホテルは、現オーナーのマルコさんの父、アンドレさんが1952年に設立。レジェ、ヴァザルリ、フォロンなどの画家や、ガラス工芸作家が頻繁に食事や宿泊に利用した。レストランには彼らが残した作品が飾られている。それとは別に多くの作品がいくつものコレクション室にあり、一般公開はしていないが、ホテルかレストランの客が頼めば見せてくれる。
15世紀の建物のホテルは部屋ごとに内装が異なり、絵画やモザイクなどが置かれており一泊の価値あり。レストランではプロヴァンス料理が供され、日中は住民がカフェとして利用し活気がある。
◉ Hôtel-restaurant Les Arcades :
14/16 place des Arcades 06410 Biot
Tél:04.9365.0104
www.hotel-restaurant-les-arcades.com
レストラン:前菜+主菜+デザート39€。
ホテル:1泊80€〜。
〈ビオット〉ガラスの町、ビオット。Biot, Ville de Verre.
ビオットでもうひとつ見るべきもがガラス工芸だ。レジェ美術館と旧市街の間あたりに「ビオット・ガラス工房 La Verrerie de Biot」 があり、吹きガラスで食器類を製造している。工房で吹きガラスの制作現場を見学でき、そこで作られたガラス製品が買えるから、そこでのショッピングの時間もとっておきたい。厚めのガラスに気泡が入ったガラスがビオットのガラスの特徴で、形もシンプルで美しく、重宝しそうなものばかり。ビオットでガラス製造が始まったのは1950年代とそう古くはないが、この工房を創設した陶芸家(ビオット市長を10年間務めたこともある)エンジニアのエロワ・モノとその妻のもとでガラス工芸家が育てられ、用途あるものではなく、塑像作品も多く創られ工房の一角に展示されている。
工房の向かいにはガラスで創られた前衛的作品が展示される「国際ガラス・ギャラリー La Galerie Internationale du Verre」もある。ガラス芸術に特化したギャラリーはフランスでも希少だが、1977年からほぼ半世紀にわたってガラス作品を創るアーティストを応援してきたセルジュ・レシャチンスキーのこのギャラリーでは、毎年7月に新しい展覧会が開催され、1年間見ることができる。ガラスを使った塑像作品を多数まとめて見る機会は少ないが、ひとまわりするだけで、ガラスの可能性の豊かさに驚かされるだろう。ビオットはこれからますます「ガラスの町」としての知名度が上がりそうだ。
La Verrerie de Biot ビオット・ガラス工房 :
5 Chemin Combes, Biot
Tél : 04 93 65 03 00
www.verreriebiot.com
La Galerie Internationale du Verre 国際ガラスギャラリー:
5 Chemin Combes, Biot
Tél : 04 93 65 03 00
www.galerieduverre.com
☞ Office de Tourisme de Biot ビオット観光局
4 chemin neuf 06410 Biot
Tél : 04 93 65 78 00
www.biot-tourisme.com
Vence (ヴァンス)
マティス晩年の傑作、ロザリオ礼拝堂。
ヴァンスの町を見下ろす丘の上、オーギュスト・ペレが設計し、アンリ・マティスが装飾した礼拝堂には、8年前にミュージアムが増設された。こうして、礼拝堂に入る前にミュージアムを見学してマティスの制作に対する理解をより深めることが可能になった。
マティスに装飾のきっかけを与えた、マティスの元看護師のジャック・マリー修道女や、建築に関心があったレシギエ修道士との交流の話、採用されなかった初案、最終的な絵に至る前のマティスの下絵などが展示されている。礼拝堂に描かれた人物には顔がない。目鼻を描くと、見る人が想像力をはたらかせるのを邪魔するからだとマティスは考えた。下絵の聖母は色っぽく、人間的だが、最終的に描かれた目鼻のない聖母は抽象的な存在になっている。
ミュージアム上階には、マティスがデザインした司祭の祭服もあるがピンクや黄色の衣装で、度肝を抜かれる。礼拝堂の印象は、訪問する時間や季節によって変わる。日が長く入る冬こそ、黄・青・緑のステンドグラスの光が内部に映える。告解室の扉は光で紫っぽいピンクになる。過去に訪れたことがある人も、新たな発見があるだろう。
◉ Chapelle de Rosaire à Vence :
466 av.Henri Matisse 06140 VENCE
Tél : 04.9358.0326
http://chapellematisse.com
日月、祭日休。火-土 10h-11h30/14h-16h30 (11月-2月)
7€ / 6€ / 中高生4€ / 12歳未満無料