大統領選挙の決選投票を24日に控え、現職のエマニュエル・マクロン(共和国前進党 LREM)、極右のマリーヌ・ルペン(国民連合 RN)両候補の選挙戦が熱気を帯びてきた。第1回投票前はウクライナ情勢を理由にほとんど選挙運動をしなかったマクロン候補も、積極的に全国の主要都市を回って遊説中。両者とも、第1回投票で21.95%の得票率で3位につけた左派メランション候補の票を確保しようと躍起だ。
“Ni Macron, Ni Lepen(マクロンもイヤ、ルペンもイヤ)”票のゆくえ
ジャド候補(エコロジー、4.63%)、ルッセル候補(共産党、2.28%)、イダルゴ候補(社会党1.75%)が第1回投票直後にマクロンへの投票を呼びかけたが、票の総数は少ない。右派でもペクレス候補(共和党、4.78%)はマクロン投票を表明したが、党としてはルペンに投票しないようにという呼びかけにとどまり、支持者の一部が極右に流れる可能性は大きい。極右に近いデュポン=エニャン(2.06%)、ゼムール(7.07%)両候補は予想通りルペン投票を呼びかけた。よって、カギになるのはメランション支持票の行方だ。同候補は「ルペンに1票でもやってはいけない」と強調。だが、それがただちにマクロンへの投票には結びつかない。
10日の結果発表直後には、リヨンやレンヌで結果に不満を持つ人たちが反資本主義、反ファシストを掲げて、それぞれ約100人、約500人がバス停などの公共器物を破壊・放火し、治安部隊が出動する事態になった。11日からはソルボンヌ大学、パリ政治学院、高等師範学校などパリを中心に「マクロンもルペンもイヤ」と、選択しがたい決戦投票になったことに抗議して数百人の学生が大学封鎖を決行。こうした学生の多くはメランションに投票したとみられるが、11日のIFOPの調査によると、メランション票の41%は無効・白紙投票、39%はマクロン、20%はルペン投票という結果が出ている。
「購買力」と「退職制度」
メランション票の獲得のために、マクロンが左派や環境保護派の提案を受け入れる用意があると発言すれば、ルペンはエネルギー製品や生活必需品のTVA減率など「購買力の候補」を自認して庶民の不満を取り込もうとする。20歳前から40年働けば60歳定年のルペンの公約に対し、マクロンは定年退職年齢の62歳から65歳への引上げを段階的に行い、国民投票にはかる可能性もほのめかす。購買力と退職制度が決選投票の重要な争点になりそうだ。
だが、ルペン候補の風力発電機反対(現存施設も漸次解体)、EU法に対する仏国内法の優先化、ロシア制裁反対、ウクライナへの武器供給反対、NATOの軍事機構からの脱退、ウクライナ戦争後のNATOとロシアの接近策など、マクロン候補と真っ向から対立する公約も考慮されてしかるべきだろう。また、移民政策では生地主義*廃止、結婚による仏国籍取得の制限、不法移民・外国人犯罪者の自動的送還、福祉サービスの仏人優先など、移民による労働力供給や経済効果を無視した外国人排除の公約にも目が向けられるべきだろう。
*現在、フランスで生まれた子は仏国籍を取得する権利がある。
極右3候補の合計32.28%に加えて、左右の不満票を入れるとルペン候補は決選投票で45%前後を獲得する計算になる。2002年にシラクと父ルペンの決選投票で極右阻止の動きが盛り上がり、シラクが82%で当選した時代とは隔世の感がある。国民の怒りと不満を巧みに取り込みつつ、ソフトなイメージを作り出したルペン。庶民の不満を利用した英国EU離脱やトランプ当選のようにポピュリズムの大波がフランスにも押し寄せていることに深い懸念を感じる。(し)