7月7日の総選挙で議会の最大勢力となった左派連合「新人民戦線」(NFP)の首相候補が7月23日、リュシー・カステ氏に決まった。総選挙以来、何人もの候補者の名があがったていたが、NFPを構成する4党間で合意に至らないまま2週間以上が経過し、その責任をお互いになすりつけるような言動さえ見られるようになっていた頃だった。
カステ氏は1987年、カーン生まれの経済学者で高級官僚。パリ政治学院、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス、国立行政学院ENA卒業。経済金融省では財務総局、Tracfin (情報処理・不正資金移転防止活動ユニット)、パリ市では財務責任者。また公共サービスを守るための市民団体 「Nos services publics」を設立し、活動してきた。フランスの超エリートコースを歩みつつも、選挙の際に社会党候補を応援するなどはあったものの、市民社会にベースを置いてきたことも左派連合を形成する4党が抜擢した理由のひとつといわれる。
いっぽう、マクロン大統領はカステ氏の名前が発表された1時間後のインタビューで、「8月中旬まで首相を指名しない」とカステ候補を一蹴。 総選挙では「どの勢力も勝たなかった」の理屈を維持し左派連合の勝利を認めないどころか、時間をかけて左派や右派との連立で議会での過半数を狙っているようだ。それにしても欧州議会選挙後、突然議会を解散し、超短期間で総選挙を行わせ、結果が自分の思う通りにならなかったからといって認めないのはどういうことだろうか。バカンスシーズンが始まった時期の選挙だったのに今回は投票率も高かった。その国民の意図を無視しては、また投票率は下がってしまうだろう。インタビューでカステ氏の首相指名を一掃したときも、「カステ氏の名前さえも一回も言わなかった。新しい首相候補に対して失礼」などの批判の声があがった。
カステ氏は、「選挙の結果は明らかです。国民はマクロン政府を拒絶し、今までと違う新しい政治を求めたのです。購買力、公正な税制、公共サービス、エコロジーなどです。今は大変な時ですが、(左派連合の勝利により)希望が生まれたのです。私も、私たちの勢力も政治を担う準備はできています。マクロン大統領には自分の責任を果たすべく首相として私を指名することを求めます」と、候補として選ばれてから初めてのインタビューで語った。マクロン政権は、特に公共サービスを崩壊させたことが非難されている。アクセスが悪い地域の人たちに極右政党に投票する人たちが多いのも、同じ税金を払いながらも公共サービスが不在であることの不満があると指摘されている。
内閣が総辞職したままの状態で「オリンピック停戦」を口実にする大統領。しかし生活苦には停戦もなく、9月の新学期にはまた教員不足の問題が待っている。(六)。