Kyoto Contemporary
仏デザイナー×京都の伝統工芸

 パリ市が運営するギャラリーで、フランスのデザイナーと京都伝統工芸の職人がコラボレーションした作品を展示している。市場が限られている伝統工芸に突破口を開き、未知の技術や素材でデザイナーの創造性に刺激を与える試みだ。

 

デザイナーと職人をマッチングさせる           

 バスチーユにある「アトリエ・ド・パリ」は、モード、デザイン、伝統工芸の担い手を支援するためにパリ市が2005年に設立した建物だ。一階はギャラリーで、上階は選抜されたデザイナーや工芸家たちのレジデンス空間。滞在期間中、企画を実現するための提携先選びや財政面でのアドバイス、研修などが受けられる。

アトリエ・ド・パリ館長フランソワーズ・サンスさん。

 アトリエ・ド・パリが6年前から続けているのが、京都市と組んだ「京都コンテンポラリー」だ。フランスのデザイナーと京都の職人をマッチングさせ、伝統工芸では考えられなかった斬新なデザインで制作する。デザイナー一人が、京都の一社と組む。パリ市と京都市が財政的にも支援している。

「5月にパリ市が選んだデザイナーたちが来日し、京都市が選んだ職人たちと会いました。この時に、デザイナーが3つの企画を提案し、希望する職人を3人選び、職人側も一緒に仕事をしたいデザイナーを選びました。最終的な組み合わせが決まったのは翌日です」と、館長のフランソワーズ・サンスさんは言う。

一人に希望が集中したりということはないのだろうか、と考えるのは杞憂で、マッチングはいつもうまくいくのだそうだ。12月には試作品が完成した。デザイナーと職人が会ったのはマッチングのときのみ。あとはスカイプで頻繁に打ち合わせをした。そうやってできた8組の作品が、1月10日からアトリエ・ド・パリで展示されている。

 作品を紹介しよう。 

 もとやま畳店の横山充さんの畳の技術は、アストリッド・オトンさんのデザインで、シンプルなスツールとテーブルに活かされた。2つのスツールはマトリョーシカ人形のようにテーブルの中に入る。スツールの蓋も開いて、中に物を収納できる。

 嵯峩螺鈿(さがらでん) 野村の野村守さんは、ピエール・シャリエさんと組んで、螺鈿をあしらった漆のスタンドミラーを作った。深い黒に虹色の螺鈿が映える。

 弘誠堂の田中善茂さんは、表具の技術で和紙と絹を張り合わせ、エリーズ・フアンさんのデザインで、はんなりとした色の、懐かしい味わいのある照明具を作った。

 株式会社小堀の小堀拓さんは仏具の制作者。アトリエ・ペルペルのデザインで、パリの自宅に置きたいようなモダンでミニマリスト的な仏壇を実現させた。

 ベッドリネンやパジャマの大東寝具工業は、インテリアデザイン全般を扱うデゾルモー/カレットと組んで、ベッドにもなる棚付きソファーのくつろぎ空間を提案。

 

 「京都コンテンポラリー」のプロデューサーは、京和傘・日吉屋の5代目当主である西堀耕太郎さん。和傘の技術で照明器具を作り、世界に売り出したことで廃業寸前だった自社の経営を持ち直させた人だ。自分の経験を伝統産業復興に役立たせたいと思い、本業とは別に、コンサルタント業務のTCI研究所を設立した。この企画で、制作中の職人さんたちに代わってパリとスカイプで毎日のように打ち合わせするのも西堀さんだという。

 

絶滅の危機にある伝統工芸を救う            

 生活様式の変化と大量生産の廉価品の氾濫で、いくら質が良くても、現代人は伝統技術で作られたものを買わなくなっている。日本に限らず、世界的な傾向だ。2017年、インテリアデザインのトレードショー「メゾン&オブジェ」で、岐阜県の伝統工芸の職人たちとコラボしたイギリスのデザイナー、セバスチャン・コンランさんは「セバスチャン・コンラン 岐阜コレクション」展のオープニングで「伝統工芸は絶滅危惧種だ!」と訴えた。伝統的な技術でていねいに作ったいいものは長く使える、とも話した。彼のような、危機感を持つデザイナーが増えれば、空前の灯寸前の伝統工芸を救える可能性は高まるだろう。

京瓦の伝統技術を受け継ぐ浅田製瓦工場は、テオフィル・ベッソンとのコラボレーション。

 環境問題と伝統工芸は一見関係がないようだが、実はとても近い。石油や石炭の使用で地球温暖化が促進され、伝統的に天然素材を使った製品は、石油から作る合成品に押されて消えつつある。野生動物も伝統技術(とその担い手)も絶滅の危機に瀕している。「生物の多様性」と言う言葉があるが、伝統工芸とその技術を守ることは、産業の多様性を保つことだ。「サステナビリティ(持続可能性)」は伝統工芸にも必要なのだ。

 「京都コンテンポラリー」のオープニングで、パリで「アトリエ・ブランマント」を運営する株式会社ブランマントの石山暁さんに出会った。石山さんは、「伝統工芸の職人には、明日が見えない、もうやめようと思っている人もいる。その現状を変えて、産業として発展できるように支援していきたい」と語った。

 展覧会は、アトリエ・ド・パリの後、1月19-23日までメゾン&オブジェでも開催され、その後、2月10日までアトリエ・ブランマントで展示される。ここでは購入も可能だ。「こうした新しい伝統工芸に関心がある人は3種類。とにかく日本が好きな人、美しいものが好きな人、そしてデザイナーや建築家」と石山さんは言う。

西陣織ブランドStarrainと、テキスタイルデザイナー、リリー・アルカラズとレア・ベリエとの協働作品。

久保商事(株)は「きもの」に関するすべてのものを現代の生活にフィットするよう商品開発を行っている。このイベントでは、ソフィー・デラ・ローサと照明器具を開発。

 1月10日の日経新聞に、企業統治に精通する久保利英明弁護士のインタビューがあった。神戸製鋼、日産自動車など、日本を代表する大手メーカーが品質管理で不正を繰り返したことについて、「真面目なモノ作りができなくなった」と嘆いていた。品質が堕落しても大手は大手として存続する。それに比べ、零細な伝統工芸の会社は、質のいいものを作っていても生活ができない・・・なんとも理不尽だ。

「京都コンテンポラリー」のような、伝統工芸がデザイナーと組んだ企画は、近年増えている。新しい方向に挑戦し、それを持続していく力を伝統工芸の担い手に期待したい。(羽)

⚫︎1/17(水)まで
Les Ateliers de Paris:30 rue du Faubourg Sait Antoine 12e
www.ateliersdeparis.com

⚫︎1/19(金)から1/23(火)まで
Maison & Objet Hall7 stand F164
1/21(日)14h から 14h45までは、このプロジェクトに参加したデザイナー、ピエール・シャリエ、アストリッド・オトン両氏を迎えてのパネル・ディスカッション。

⚫︎1/25(木)から2/10(土)まで
Atelier Blancs Manteaux:38 rue des Blancs Manteaux 4e
http://www.abmparis.com/ja/