Jean Rondeau “Scarlatti Sonatas”
フランスにはチェンバロの名手が多い。クリストフ・ルセ、ピエール・アンタイ、セリーヌ・フリッシュなどに次ぐ新世代といえば、ジャン・ロンドー。彼が2018年に出したスカルラッティ集が傑作だ。バッハと同時代のドメニコ・スカルラッティは、チェンバロが得意だったスペインのマリア・バルバラ王妃のために555曲のソナタを作曲した。ソナタといっても1楽章だけの、ほとんどが3、4分前後の小曲で、テーマが何度か繰り返されていくのが特徴だ。
一曲目K208のアダージョでは、テーマの途中の転調が美しい。ロンドーは遅めのテンポで、そのテーマを繰り返していくのだが、ショパンのプレリュードを思わせる詩情がある。K141では、両手による早いアルペジオが交差して生まれる不協和音のユーモアとドラマ! K213のアンダンテでは、音楽が止まってしまいそうなほどの大胆な間をとって、一音一音の響きから情感をにじみ出させる。K162は、クープランを思わせる優雅な曲だが、ロンドーの独特の語り口が伝わってくる。使われている楽器の中音域の柔和な美しさも格別で、その音色の微妙さを味わいたいなら、ボリュームをしぼって聴くといい。(真)