「作った作品は未完成、最後まで到達しない」
この春のシネマテークは今村昌平、ロミー・シュナイダー(展覧会も同時開催)、ジョナス・メカス、スタンリー・キューブリックら、あらためてスクリーンで出会いたい映画人のレトロスペクティブが盛りだくさん。
4月7日から16日までは、日本びいきの映画作家ジャン=ピエール・リモザン特集も始まる。『TOKYO EYES』(1997)『Novo/ノボ』(2001)などのフィクションに加え、ヤクザに密着したドキュメンタリー『Young Yakuza』(2006)など監督作を一挙上映。
リモザン作品は映画館でのリバイバル上映が稀なので、この機に腰を据えて(再)発見したい。4月10日14hからは『TOKYO EYES』の上映後、監督による映画レッスン「Jean-Pierre Limosin par Jean-Pierre Limosin」を開催(映画とレッスン共通券)。映画の殿堂で初のレトロスペクティブとなる監督に、モンマルトルの丘のふもとのカフェで話を伺った。(聞き手:林瑞絵)
—いよいよシネマテークでレトロスペクティブが開催ですが、今のお気持ちは。
少々不安(笑)。いや、もちろん感動もあります。私は普段過去の仕事を振り返ることはありません。ですから自分の仕事を少しは理解できる機会になるかもしれません。例えば、私の犯罪映画『夜の天使 Gardien de la nuit』は、自分の出身地であるヴァル・ドワーズ県で起きた三面記事的事件が基になってます。そして後年、アッバス・キアロスタミ監督に会ってドキュメンタリー(『ドキュメント・キアロスタミの世界 Abbas Kiarostami, vérités et songes』)を撮ったのですが、彼の作品のひとつ『クローズ・アップ』に強烈に心を奪われました。自分が魅了される世界観が繋がるのを感じたのです。自分の仕事も人生を編集するような形で後から理解するようです。
—以前、「ドキュメンタリーもフィクションも違いがない」と発言されていましたが、その気持ちは変わりませんか。
同じです。ドキュメンタリーのようにフィクションを撮り、フィクションのようにドキュメンタリーを撮るのです。私の初監督作品はアラン・ベルガラと共同監督をした『逃げ口上 Faux-fuyants』でした。彼が書いた3、4ページのシナリオを基にドキュメンタリー的に撮影しましたが、その時の影響が残っているかもしれません。また、日本のヤクザについての映画『Young Yakuza』を撮りましたが、ギャングスターはちょっとフィクション的な人物でもありますね。
—あなたはキアロスタミ、北野武、ダルデンヌ兄弟ら、監督についての映画も多く手がけています。他の監督についてのドキュメンタリーをこれほど撮る監督も珍しいのでは。
私はテレビシリーズ「Cinéma, de Notre Temps 我らの時代の映画」の発案者であるジャニーヌ・バザン(批評家アンドレ・バザンの妻で映画プロデューサー)をよく知っていましたが、この企画そのものが「監督が監督を撮る」というものでした。私は映画においては演出こそが一番の冒険だと考えます。それぞれの監督には独自の演出方法がありますが、彼らの個性や作品における刻印を探し出すのです。北野武の場合は暴力と編集の関係性についてなどです。
—では他の監督についてではなく、あなた自身の仕事についてで印象深い作品は何でしょうか。
特別な一本というのはありません。作った作品は全て未完成のまま。最後までは到達せず、そしてまた最初から始めるという意識があります。
— 未完成さは魅力でもありますね。
『TOKYO EYES』を作った時の心の状態は大変気に入ってますよ。制作中は何が出来上がるのか、自分でもわからなかったのですが。フランスと全く違うシステムの中で、日本の若い俳優たちと仕事をしました。当時の私はまるで亡命者のようでした。また、一年半撮影をした『Young Yakuza』も印象深い経験です。当初は目の前の状況に自分自身の理解が追いつかず、すぐにやめるつもりでいたのですが、時間をかけて対象者と人間的な関係性を築くこともできました。最終的には時間についての映画となりました。
— 監督として日本のどこに惹かれますか。
日本的な感受性や創造性、見えないものに対する感覚に興味があります。そういえば自分の好きな場所である恵比寿の写真美術館に行った時に印象的な出来事がありました。とても年を取った誘導棒を持った警備員がいて、後ろには彼が座る椅子がありました。ちょうど若い警備員と交代の時間だったようで、彼は挨拶をしたあと、自分が座っていた椅子のクッションをひっくり返しました。ただそれだけです。でもそれはフランスでは絶対に見られない光景。本当に小さなレスペクトの印なのです。その一瞬があまりに印象的で、美術館で見た写真をすっかり忘れてしまいました。(笑)
— 次の映画も日本についてになりそうですか。
今はフィクションのためのシナリオを執筆中。撮影場所はパリですね。コロナが完全に終わらないと動きにくいですし。しかし、日本で撮りたい場所があるので、もしかすると日本でも撮影するかもしれません。
—では最後に、シネマテークに来る日本の映画ファンに一言を。
交流できるのが楽しみです。シンプルで常軌を逸した(=folle)ディスカッションを期待しています。
● シネマテークでのレトロスペクティヴ
Rétrospective Jean-Pierre Limosin (4月7日から16日迄)
プログラムはこちらから。
● Rétrospective Jean-Pierre Limosin à la Filmothèque du Quartier Latin
4月13日から26日迄、パリ5区の名画座フィルモテークでも
修復されたリモザン監督作品3本『逃げ口上 Faux-fuyants』『夜の天使 Gardien de la nuit』『TOKYO EYES 』が上映される。
la Filmothèque du Quartier Latin:9 Rue Champollion 75005 Paris
https://www.lafilmotheque.fr/evenements/retrospective-jean-pierre-limosin/