ジュルナル・デュ・ディマンシュ記者のスト終了。
数十人の記者が退社か?
8月1日、日曜日発行の週刊新聞「ジュルナル・デュ・ディマンシュ」(JDD)の記者はストライキ終了を圧倒的な賛成多数(82対5)で決定した。これで、ジョフロワ・ルジュンヌ氏の編集長の就任に反対して40日間続いていたストに終止符が打たれた。同氏は同日、正式に編集長に就任し、JDDの電子版は翌2日から再開、紙版は8月6日、発行を再開した。
差別的表現で有罪判決も受けた新編集長
ストのきっかけは6月22日にJDDの親会社ラガルデール・ニュースが、極右思想雑誌として知られるヴァルール・アクチュエルValeur actuelle(以下VA)の編集長ジュフロワ・ルジュンヌ氏(34歳)をJDDの編集長に迎えると決めたこと。ルジュンヌ氏は2016年からVAの編集長を務めていたが、同誌の極右化に異議を唱える新経営者により、6月に解雇された。同氏は極右のエリック・ゼムール元大統領候補を支持し、CNewsなどに頻繁に出演して極右的発言を繰り返す人物。黒人の国会議員を奴隷に見立てた絵を表紙に掲げ、またその関連記事を掲載したことなどにより21年に有罪判決も受けている。
JDD記者組合はルジュンヌ氏の価値観はJDDのそれと全く矛盾すると反発し、記者の独立性の保証と経営陣が「差別的あるいは憎悪を煽る」内容を拒否することを求めてストに突入した。しかし、ラガルデール・ニュースはこれを拒否したため、新聞としてはほぼ50年ぶりの長いストとなった。数十人の記者が退社するとみられ、記者への退職金などで経営陣と合意が成立した。共産党はJDD経営側の姿勢は「新聞の自由に危険な影響を与える」と非難し、社会党、エコロジー党は今後JDDのインタビューには応じないとした。
ボロレによるメディア掌握。
ラガルデール・ニュースは近くボロレ・グループに完全吸収されることになっており、ルジュンヌ氏起用には同グループの会長ヴァンサン・ボロレ氏の意向が強く反映されていると考えられている。ボロレ氏が大株主のヴィヴァンディ社はTVのカナル・プリュスグループ(カナル・プリュス、C8、CNews)、ラジオ(Europe 1、RFM)、パリ・マッチなどの雑誌や大手出版社を傘下に持つ。2016年にはi-Télé(現在のCNews)の買収でジャーナリストのストや大量辞職が起きた経緯もある。このi-Télé騒動がきっかけとなって同年にブロッシュ法が成立し、TV・ラジオの編集部に職業倫理憲章と倫理委員会の設置が義務づけられた。
また、今回のJDDのスト中の7月19日、極右と右派共和党を除く全政党の国民議会議員15人が政府の補助金を受けるメディアの編集部門の独立性を保護するための法案を提出した。その法案には、新聞・雑誌の補助金受給、TV・ラジオの周波数割当のためには編集長任命の際に記者の合意が必要という項目が盛り込まれている(審議は12月以降)。この法案は左派ジェネラシオン党のイニシアティブだが、服従しないフランス党(LFI)も22年10月にメディアや文化産業の集中化を防ぐための法案を提出していたが、こちらのほうは国会審議が進んでいない。与党内にも、メディアの集中を懸念する声があり、マクロン大統領が22年に公約していた、メディアへの介入を防ぎ、記者の職業を保護するための「全国情報会議」が9月に開始される予定だ。
仏紙がメディアの「bollorisation(ボロレ化)」と揶揄するように、超保守派とされるボロレ氏のテレビ、ラジオ、新聞・雑誌、出版社などメディア支配には懸念すべきものがある。40日間も闘いを続けたJDDの記者たちのがんばりは報われなかったが、ジャーナリズムの独立性の保護を世間に訴えたことに拍手を送りたい。(し)