相撲の稽古は、 厳しく、楽しく。

アントワーヌ・マルヴィエさん Sumo-Paris主宰者

 アントワーヌ・マルヴィエさん(48歳・写真左)は、フランスで唯一の相撲クラブ Paris-Sumo*の主宰者だ。《大相撲パリ公演》を偶然テレビで観たのが相撲との出会いだった。千代の富士、曙や小錦らが出場し、若・貴兄弟対決となって大いに湧いた1995年のパリ公演。10代から柔道をやってきたアントワーヌさんはその後、インターネットにアップされる組み合いのビデオを何度も何度もスローモーションで見るなどして技を研究した。

相撲ファンのネット上のフォーラムで意見を交換していた仲間たちとの会食で、相撲経験者は皆無だったがクラブを結成することに。 9年前のクラブ創設時6人だったメンバーは今、16人に増えた。本屋さん、プログラマー、消防士、修道士、曙が主人公の相撲漫画を読んでやって来た17歳の青年など、プロフィールはさまざまだ。

パリを訪れた貴乃花はシコを披露してくれた。土俵では開脚前屈をし、体の柔軟性に驚かされたとアントアーヌさん。速い動きと力に強い印象を受けた。

貴乃花の名勝負を、本人の前で再現した。土俵前で笑顔で見守る貴乃花。

 毎週日曜の朝、パリ2区の体育館で稽古する(クラブ結成当時は稽古場はなく、ヴァンセンヌの森の芝生だった)。掃き掃除から始め、小さな室内をランニング、柔軟体操、筋トレ、すり足、つっぱり、シコを踏んで、組み合う2時間半。ベーシックな決まり手から、寄り切りなどの技も練習する。汗吹く彼らの背中や腕に彫られた、豪華な刺青が目に飛び込んでくる。まわしの代わりのパンツが色とりどりで、キャラクター入りだったりするのも眩しいが、「稽古は厳しく、楽しく」とアントワーヌ”親方”。

 相撲の何が好き?と聞けば「シンプルなこと」との答え。「規則がシンプルで勝負が短いからこそ、いかさまが出来ない。勝つことが大切なのではなく、いい動きをし、技をよき時機にかけられるのが、私にとってのいい相撲」と私感を語る。ニコラ・サルコジが内相時代に、相撲は「髪にポマードをつけた肥満男の格闘…インテリのスポーツではない」とコメントしたことに関しては「彼は多くのフランス人が思っていることを言ったまで」。こんな偏見をなくしたいそうだ。数年前に貴乃花がテレビの仕事でパリを訪れた時には、撮影に呼ばれて指導を受ける栄誉に恵まれた。

 まわしの入手は難しいから自分で作る。「日本に行ったクラブの仲間も、まわしを買えずに帰ってきました。前回はアメリカのネット経由で買いましたが…。せめて部員全員の分は揃えたい」。消防隊が使うような、厚さ4ミリ、幅5.5ミリの頑丈な木綿テープ2枚を自らミシンで継ぎ合わせ、長さ5〜6メートルのまわしを作る。これにたどり着くまでには背中部分にマジックテープをつけた簡易まわしなど、試行錯誤を重ねたという。

ミラノ大会に出場。

 スポーツとしての相撲はじわじわと世界に広がっていて、女子相撲もあれば、体重別に階級(階級のひとつとして無差別級もあるが)になっていたり、それなりのルールで行われているのに、大相撲の世界は保守的な感じだが?「国際的スポーツとなった柔道は、40年前とは全く違う、勝敗が重要視されるスポーツとなりました。大相撲はそういう事態から相撲を守っていると思う」。例えば大相撲では、「立合い」で組合いが始められるが、アマチュアは行司の合図で試合を開始する。力士が睨み合いながら上体を低くし、合意が成立した時点で相手にぶつかりに行く立合いは、勝負の8割方を決める要素とも言われる。それがなくなることで相撲の性質は大きく変わってくる。

 日本には行ったことがないが「2020年には行きたい」という。東京五輪の年だから?「五輪?いえ、4人の子どもたちに手がかからなくなるから」。週に一回柔道を教えているが、基本的には主夫だから、今は家を空けられないのだ。

 稽古の後は、よく好物のうどん、ラーメン、天ぷらなどを仲間と食べに行く(漬物や豆腐も好き)。身長170センチ、75キロの締まったボディのアントワーヌさん、太るためのカロリー計算は?「しません、アマチュアですから!実はクラブにも痩せたい人が多くて。私は、大工仕事もするので体力を使うから、毎日トレーニングもしてません。怠け者なんです!」と笑う。各々が自由に「趣味」と付き合う感じだ。息子さんは、サッカーが好きだという。(六)*www.paris-sumo.fr

 

左から、ヨアンさん、ヴァンサンさん、ロマンさん、アントアーヌさん。

フランスのメディアでも人気。テレビのスタジオでデモンストレーション。