Hilary Hahn “Eugène Ysaÿe : Six sonatas for violin solo, op.27”
ベルギー生まれのヴァイオリン奏者で作曲家のウジェーヌ・イザイは、1923年、名ヴァイオリン奏者、ヨーゼフ・シゲティによるバッハの無伴奏ヴァイオリン曲をきいて、深く感銘し、一晩でこの6曲の無伴奏ヴァイオリンソナタのスケッチを書き上げたといわれている。バッハにつらなる精神性と、彼自身ヴァイオリンの名手だっただけに高度の技巧が求められる難曲だ。
この曲には、フランク・ペーター・ツィンマーマンの名盤があったのだが、最近リリースされたヒラリー・ハーンの演奏は、それをしのぐ。たとえば第1番のフガータはバッハの対位法が反映しているのだが、ハーンの演奏は驚くほどの透明感で各声部が聞こえ、繊細なニュアンスとうるおいがある。第3番の『バラード』や第4番の『アルマンド』では、あたたかい低音に支えられて高音域がレガート豊かに歌いつづける。二つの弦を同時に弾くことから生まれるハーモニーが深く美しい。20世紀に入っての音楽か、としり込みするなかれ。ハーンの名演に包まれて、いつのまにかイザイの世界に溶け込んでいく。録音も優秀だ。ハーンは11月のPhilharmonie de Paris 公演でメンデルスゾーンの協奏曲を弾くことになっているが、いつになったらこのイザイのソナタを演奏してくれるのか、待ち遠しい。(真)