FUKAMI 深みへ − 日本の美意識を求めて

田中一村の日本画 © Graziella Antonini

   パリを中心に、2018年7月から8カ月間続く「ジャポニスム2018」の、一連のイベントが始まった。オープニングを飾るのはサロモン・ド・ロチルド館の「深みへ − 日本の美意識を求めて」展。2017年10月―2018年3月のポンピドゥー・メッスでの「ジャパノラマ」展に続き、東京都現代美術館のチーフ・キュレーター、長谷川祐子氏がコミッショナーを務めた。

「ジャポニスム2018」は、日仏友好160周年に合わせて「世界にまだ知られていない日本文化の魅力を紹介する」イベントだという。たしかにこの展覧会には、伊藤若冲、田中一村など、フランスで初めて紹介される大物アーティストが含まれている。各展示室のテーマはアニミズム、素材の変容、ミニマリスムなど。会場が小さいのでコンパクトだが、作品の組み合わせの妙で刺激的な展覧会になった。

 

右:Anrealage 2017-2018 秋冬コレクションROLL, デニム (Anrealage, 名和晃平| San dwich協力)。ガラスケース:縄文土器2点(国宝)、テーブル:縄文土器破片 十日町市博物館 © Graziella Antonini

 〈生命の源を表現する−アニミズムの解体と伝承〉と題された展示室では、縄文土器をガラスケースに入れ、土器の破片を、土器が発掘されたときの状態を再現して平らに並べた。そのそばに、アパレルブランドAnrealageの森永邦彦氏と、彫刻家の名和晃平氏がデニム生地のロールを削って作った、縄文模様に似たモチーフをあしらった塑造作品のような服がある。土っぽくも宇宙的な服が、時空を超えて縄文土器とつながった(上写真)。別のガラスケースには、江戸時代の旅する仏師・僧侶の円空の仏像が数点。円空をフランスで見られるのは珍しい。

 中央画壇に失望し、50歳で移住した奄美大島で新境地を開いた日本画家、田中一村の作品はこの展覧会で初めて海外に出た(冒頭写真)。「日本のゴーギャン」と呼ばれる一村は、無名のまま一生を過ごしたが、近年評価が高まっている。南国の動植物を描いた作品の大胆な構図と鮮やかな色彩は一村ならではのもの。南国の植物を植えた温室に面した展示室に一村の作品が展示され、隣室にはゴーギャンの「ノアノア」シリーズから選んだ作品があり、二人の共通項を想起させる。

 北斎と白隠の展示室には、白隠のマル、三角、四角の抽象墨絵と、北斎の富嶽三十六景。十二景を選んだコミッショナーの長谷川氏は「富士が人を見ている。自然が人を見ている」と、北斎の中にある自然と人間の関係を説明した。

 アーティスト、プログラマー、DJの真鍋大度氏は、大画面に世界地図を映し出し、コンピュータがリアルタイムでハッカーに攻撃されるのを表した。実際の戦争ではないが、水面下で展開されている戦争だ。毎秒、地球の裏側に攻撃が飛ぶ。フィクション映画のように面白いだけに、見ているうちに怖くなる。これも圧倒される作品だ。

 地下は〈メタモルフォーズ/エピローグ〉と題された展示室。界面活性剤と保湿剤と水で作った泡が、気圧や温度、湿度などにより絶え間なく形を変える(写真下)。つい、触ってみたくなる。青い光が宇宙的な、前述の名和晃平氏の作品である。

名和晃平「Foam」2018

 書ききれなかったが、ほかにも興味深い作品がたくさんある。19世紀のの邸宅の構造と内装を活かして、質の高い作品を見せ方の面白さでより魅力的にしたのは長谷川氏の手腕だ。これから2019年3月まで、美術、ダンス、演劇、食、映画などのイベントが山のようにやってくる。在仏者には嬉しい限りだ。

大牧伸嗣「Echoes Infinity 永遠と一瞬」2018。白いカーペットに日本の伝統的な岩絵の具で、着物やアジアのテキスタイルのパターンを表した。

「ジャポニスム2018」は、首相官邸の主導で、「『日本の美』総合プロジェクト懇談会」が構想を練った。「日本の文化芸術と日本人の美意識・価値観を国内外にアピールする事」が目的のひとつとされている。

 ロシア革命後、旧ソ連はロシア・アヴァンギャルドを国力のプロパガンダに使った。冷戦時代、CIAはアメリカ文化の優越性を示すため、ロスコ、ポロックなどのアメリカ抽象美術を陰で支援した。フランスでも、自国文化の宣伝は国の存在感を誇示するための重要な手段だ。日本もやっとそれに気づいてきた。日本文化に惹かれた外国人を2020年の東京オリンピック・パラリンピックに誘致したいという思惑もある。

 しかし、文化と政治の関係は微妙だ。「ジャポニスム2018」のプログラムを見る限りその心配はないようだが、文化が政治に利用されたり、国策として政権に都合の良い芸術作品が選ばれる危険性はいつもある。オヴニー851号で紹介した〈モントルイユの呼びかけ〉は、そうした、文化に政治が大きく入り込むことで表現の自由が制限されることを危惧する人たちが始めたものだ。

名和晃平の「Throne」(2018)

 やはりジャポニスム2018の一環として、名和晃平氏がルーヴル美術館のピラミッドの正面入り口に置いたThrone(玉座)を見た。神社仏閣の造形や江戸末期の山車などを研究して3Dで設計し、金箔を貼った3トンの巨大彫刻である。ルーヴルを設計した建築家、イオ・ミン・ペイはその場所に観客を迎える彫刻を置きたかったのだというが、ずっと空いたままだった。そこに初めて、名和氏の彫刻が来た。

作品は炎のようにも、千手観音のようにも見える。昔からあり、今も未来も続く「権威」を表していると作者は言う。ルーヴルはもともとフランス王家の宮殿で、ナポレオン1世が美術館にした、権威の象徴のような場所だ。金箔の金も、権威と密接に結びついている。おりしも、仏領ギアナのアマゾンのど真ん中で金山を開発するかを巡り、開発推進派と環境保護派が対立している。マクロン大統領が、経済相時代に開発を約束した鉱山だ。金は欲望と抗争の象徴でもある。「玉座」から、今進行中の問題も浮かび上がる。(羽)

FUKAMI展 8月18日まで

「FUKAMI」展会場のサロモン・ド・ロチルド館。

名和晃平氏の「Throne(玉座)」は、約半年展示。
ルーヴル美術館、ピラミッド入り口に展示されている。

 


Exposition FUKAMI - Hôtel Salmon de Rothchild

Adresse : 11 rue Berryer, 75008 Paris , France
TEL : 01 71 93 75 55
アクセス : Ternes / Charles de Gaulle - Étoile / George V /Saint-Philippe-du-Roule
URL : www.hotelsalomonderothschild.com/
11h à 20h 入場19hまで。7/23と8/6休館。入場料5€。