
西洋絵画の場合、少なくとも20世紀前半くらいまでは、古典の名作を模写して、描き方や色の使い方を先達に学ぶのが当たり前だった。人より遅く美術学校に入学したマティスは、シャルダンなどの絵を懸命に模写した。美術品が少なかった地方の美術館に買い上げられることが、優れた模写作品の証となった。1968年以降、美術教育は大きく変わったが、模写の伝統は細々と続き、美術館には常に模写する人がいる。
ピカソがドラクロワの「アルジェの女たち」を消化して全く違う作品を作り上げたように、近代以降の模写は、元となる作品を踏まえながら、新たな息吹を加えた創作だ。マティスも自分の道を歩み始めてから、以前は忠実に模写した作品をマティスの作風で描いた。その辺りは和歌の「本歌取り」に似ている。
それを現代のアーティストがしたらどうなるだろうか。本展はポンピドゥーセンター・メスとルーヴル美術館が協力し、100人の現代アーティストにルーヴルの所蔵品から作品を選んでもらい、自分なりにコピーしてもらうという趣向だ。面白いチャレンジとみなされたのか、依頼を断る人はほとんどいなかったという。
広い会場には脈絡なく作品が並ぶ。元となったルーヴルの作品の写真がそばにあれば、比較して見ることができるのだが、それがないのが残念だ。自然と、知っている作品や有名な作品のコピーに目がいく。
一眼でコピーとわかるのは、ジャン=フィリップ・デロームの「ゴヤ以降」。ゴヤの「カルピオ伯爵夫人、ソラナ侯爵夫人」の肖像画を元に、てらいなくあっさりとコピーした。

Huile sur toile, 146 x 97 cm
コローの風景画の中に、子供時代に通った橋を見つけて、自分の思い出と結びつけた作品を作ったのはルイジ・セラフィニ。コローの風景画をめくると、下から少年時代の自分が出てくる仕掛けにした。
一色に塗ったキャンバスの上に三色旗と武器を置いたベルトラン・ラヴィエの作品は、人が描かれていなくても、旗と武器の位置で、元がドラクロワの「民衆を導く自由の女神」だとわかる。革命を描き、紙幣にもなった国民的絵画だからこそ、このような大胆さでコピーしても元の絵がわかる。
元が同じドラクロワでも、アニェス・テュルノエルは、自由の女神と隣の少年だけを拡大した画面に、フェミニストのモニク・ウィティグの「女ゲリラたち」の文章を載せた、フェミニズム色が強い作品にした。このように、同じ題材から、素材も観点も全く違う作品が出来上がることを見られることがこの展覧会の面白さだ。

Graphic design Loan Tourreau Degrémont
出展作品のほどんどが絵画だ。数少ない彫刻の中に、サモトラケのニケを炭とレジンで再現したサンパウロで活動するウンベルト・カンパナの「サモカオス」がある。熱帯雨林が燃えて、焼け残った木がニケの像になったようにも、森の守り神が炭素化したようにも、古くからの文化が焦げた遺体になったようにも見える。エコロジー的危機と文化の危機を象徴するような作品だ。

世界中のアーティストが参加する中で、日本人では、松谷武判が大理石の彫刻「眠るヘルマプロディートス」を元に、白と黒の対比が美しい「二通りの見方」を出展している。ヘルマプロディートスは両性具有の神で、両親はヘルメスとアフロディーテ。体の中に女性性器と男性性器があり、眠っているときは、どちらかの性が突出することなく穏やかな調和の中にある。

出展作家の中で唯一、詩を書いたのは詩人の関口涼子。20世紀末に北フランスの美術館から盗まれた18世紀の彫刻が、人々が心の中にそれを思い描くことによって戻ってくることを想像してみようという内容だ。想像の力で不在は埋められるのか。そこにないものをどうコピーするのか。模倣する能力の自由さと限界についても考えさせられる。
作品数が多いのと、どの作品を元にしているのかを知るために説明を読むのとで時間が取られるので、半日過ごすつもりで訪れてほしい。(羽)2月2日まで。


Centre Pompidou Metz
Adresse : 1 parvis des Droits de l'Homme , METZ , FranceTEL : 03 87 15 39 39
アクセス : Paris Gare de l’Est からTGVで1h20。Gare Metz-Ville下車。徒歩5分。
URL : https://www.centrepompidou-metz.fr/
火休。10h-18h。7〜14€。



