ルーブル美術館が2024年に購入したジャン=シメオン・シャルダン(1699-1779)の傑作「野苺の籠」(1761)が、オルレアン美術館開館200周年記念の展覧会のため、2025年秋、オルレアンに里帰りした。この作品を中心に、シャルダンのコレクター、マルシル家が所有していたシャルダン作品5点を集めた「オルレアンの情熱 マルシル家のシャルダン」展が1月11日まで開かれている。

Paris, Musée du Louvre, Département des Peintures, inv. RFML.PE.2024.7.1, TR 79
© Courtesy of Artcurial
オルレアンの富裕層が創設した美術館
19世紀末、フランス政府は国内15都市に美術館を作ることを計画したが、その中にオルレアンは入っていなかった。そこで、経済的に豊かな市民たちが政府の援助なしで美術館を創設したのが、オルレアン美術館である。ロワール川を使って運ばれる植民地の砂糖がもたらす富で栄えた町だ。
それに関与した1人が、シャルダンの友人の実業家で、アマチュア画家、コレクターでもあったエニャン=トマ・デフリシュ(1714-1800)だ。植民地の貿易品を扱う卸売商人で、精糖工場も経営した。オルレアン美術館のコレクションの充実に貢献したメセナで、シャルダンなど、彼と親交を結んだ芸術家たちがこの町を訪れるきっかけを作った。
シャルダンは王立絵画彫刻アカデミーの正会員で、ルーヴル宮殿(当時)にアトリエと住居を持っていたほどの認められた画家だったが、歴史画や王侯貴族の肖像画を描く当時のスタンダードな画家と違い、静物画や一般の人々を描いた風俗画で有名になった。
オルレアンの穀物商マルシルのシャルダン・コレクション
オルレアンでシャルダンのコレクションを始めたのは、穀物商人のフランソワ・マルシル(1790-1856)である。ブーシェ、フラゴナールなどルイ15世時代の美術家の作品を集め、その数は4500点に上った。シャルダンは30点あった。生前有名だったシャルダンは、死後忘れられたため、マルシルが収集を始めた時、この画家に注目する人はいなかったという。

François Marcille (1790-1856), Autoportrait, 1831
美術品収集熱はマルシルのふたりの息子ユードックスとカミーユに引き継がれた。カミーユはシャルトル美術館の学芸員になり、ユードックスは1870〜90年にオルレアン美術館館長を務めた。この2代目の頃にシャルダンの評価が上がり、作家のゴンクール兄弟がシャルダンの伝記を書くためにマルシル・コレクションを参考にするほどだった。しかし、息子2人が亡くなると、相続によってコレクションは散逸した。
「野苺の籠」
2012年9月から2013年1月にかけて、東京・三菱一号館美術館で日本初の大規模なシャルダン展が開催されたとき、「野苺の籠」も出展され、この時は「個人蔵」と記載されていた。この作品が世界的に大きな注目を浴びたのは2022年、パリで競売に出された時だ。テキサス州にある美術館に入れるために2430万ユーロ(当時の換算で32億円)という巨額でニューヨークの画商が落札した。驚いたフランス政府は、この作品を国宝と認定し、国外流出を阻止しようとしたが、そのためには30ヶ月内に買い戻し資金を集めなければならなかった。ルーヴル美術館が募金を募り、ルーヴルの自己資金のほか、LVMHなどのメセナやルーヴル友の会などの出資によって2024年に買い戻し、晴れてルーヴルの所蔵品になったという、いわくつきの作品である。
野苺が籐製の籠にピラミッド状にうず高く盛られ、白いカーネーション2本が横たわっている。野苺は熟しすぎるくらいに熟れていて、形が崩れているものもある。シャルダンは遅筆で、作品を何度も描き直したという。ピラミッド状に盛った野苺は、何日もかけて描くうちに痛み始めたのかもしれない。シャルダンの静物画は三角形の構図のものが多いが、この作品では中心にある対象物がすでに三角形だ。赤と白の対比が美しく、考え抜いて配置したであろうことがわかるミニマリスト的な構成だ。

会場にある他のシャルダン作品は「背肉のある静物」、「大鍋、片手鍋、窯、布巾、キャベツ、卵2個、パン、ニシン三匹の静物」、「貯水器」、「自画像」で、パステル画の「自画像」のみがオルレアン美術館の所蔵品である。鼻眼鏡をかけた画家が首に巻いている格子模様のスカーフは、前述のデフリシュが商売で扱った品だった。

Jean Siméon Chardin (1699-1779), Autoportrait aux bésicles, 1773.
オルレアン美術館は、15世紀から20世紀までの西洋絵画の主な流派を網羅している。パステル画ではルーヴルに次ぐ重要なコレクションとして有名だ。彫刻、デッサン、版画も充実している。半日弱かけてゆっくり見て回るのに最適だ。(羽)2026年1月11日まで


Musée des Beaux-Arts Orléans
Adresse : Place Saint-Croix , 45000 Orléans , FranceTEL : 02 38 79 21 86
アクセス : SNCF Orléans 駅から徒歩15分ほど
URL : https://museesorleans.fr/
火水金土:10h-18h (木-20h)。日:13h-18h。8€/4€(このチケットを買うと、同日、他のオルレアンのミュージアムにも入館可能)詳しくは https://ovninavi.com/orleans2025/



