Eliott Erwitt rétrospective
写真家の名前を知らなくても、彼が撮った写真はどこかで見たことがあるだろう。今年95歳になる米国人写真家、エリオット・アーウィット(1928〜)の大回顧展である。好評のため、8月15日までだった会期が9月24日までに延長された。
ユダヤ系ロシア人の両親のもとでパリに生まれ、イタリアに移住したのち、10歳の時に米国に渡った。ロサンゼルスとニューヨークで映画と写真を学び、1950年代にロバート・キャパの誘いで、写真家集団「マグナム・フォト」に加わった。
いつも2台のカメラを持ち歩く。1台は仕事用で、注文を受けて撮るカラー写真、もう1台は自分用で、自由に撮る個人的な白黒写真。本人曰く「カラー写真は描写にすぎない。白黒写真は対象の本質を捉える」。展覧会は白黒写真に多くのスペースを割いている。展覧会を最後まで見ると、彼の言った意味がわかる。
ユーモアが漂う写真で定評がある人だ。意外な組み合わせが笑いを誘う。ベンチに座るヌーディストのカップルは、なぜか女性が編み物をし、男性がつまらなそうな顔をしている。結婚式後に、車の後部に座った、新郎新婦ではないかもしれない男女。車には「今朝彼女は僕をゲットした。今夜は僕が彼女をゲットする」と書いた紙が貼られている。家族の集合写真でさえ、アーウィットの手にかかるとありきたりにならない。息子二人と父母が座った写真では、威圧的な母親とドイツの無声映画に出てくる人物のような目をした長男が異様だ。
キスをする恋人が車のミラーに映っている有名な写真(上)は、誰もいない浜辺の風景と相まって、シュールリアリズムのような不思議な空間を作り出している。これは演出した写真ではないが、もう一つ有名な、エッフェル塔を背景にして傘を持った恋人と、傘を持った人が大股で飛ぶ瞬間を撮った写真(下)は、エッフェル塔建築100周年のために演出した写真で、パリを舞台にしたミュージカル映画のシーンのようだ。
一番面白いのは、犬愛が止まらないアーウィットが撮った犬のいる写真(一番上の写真)だ。ブーツを履いた女性に連れられた小さな犬。ブーツの隣に大型犬の脚が見える。並んだ足と、服を着て帽子を被った小犬のキョトンとした表情の組み合わせが秀逸だ。「犬の視点に興味がある」という彼は、小犬の気持ちになって撮ったのかもしれない。
クスッと笑えて、人間っていいな、と思えてくる。人物がいない建物や風景の写真にも、どこか人間の跡がある。皮肉が効いている作品でも、辛辣にならない。肯定的に生きている心の温かい人なのだろう。それが作品から感じられる。
最後のカラー写真の会場は、米国の歴代大統領、チェ・ゲバラとカストロ、マリリン・モンロー(写真下)をはじめとするハリウッドのスターたちが続々と現れ、豪華絢爛だ。それでも心に残ったのは、作家の内面に触れられる白黒写真の方だった。(羽)9月24日まで開催。
Musée Maillol
Adresse : 61 rue de Grenelle , 75007 Paris , FranceTEL : 01 42 22 25 44
アクセス : Rue du Bac
URL : https://museemaillol.com
無休10:30-18:30、水のみ10:30-22:00。一般16,50€ 、6〜18歳12,50€。