
フォン・デア・ライエン欧州連合(EU)委員長は3月19日、先のEU首脳会議で加盟国の賛同を得た「欧州再軍備計画」に基づく、加盟国向けの指南書となる防衛白書を明らかにした。
白書は、ロシアの脅威と欧州に背を向ける米国の姿勢から、EUが自らの防衛力を強化することを目指す。2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻以来、加盟27ヵ国の防衛費は2021年比で31%上昇して2024年は計3260億€に達しているが、それでも不十分として2030年までに8000億€規模の「欧州再軍備計画」が策定された。白書では、EU委は加盟国に今後4年間、国内総生産(GDP)の1.5%を軍事費に充てるよう促し、その間加盟国は財政赤字に関するEU規則の例外措置を申請できる。各国の防衛予算で6500億€をまかない、残る1500億€はEUが共同で借り入れて基金とし、加盟国が他国と共同で防空、ドローン、ミサイル、大砲、サイバーセキュリティなどの分野で武器を共同購入するのに充てられる。その「他国」は加盟国でなくてもよく、EU加盟候補国、カナダや英国、EUと安全保障・防衛パートナーシップを結ぶ日本や韓国も含まれる。ただし、購入する武器の構成要素の65%以上がEU域内製造であること、ミサイルなどは欧州企業が調整・改良できることが義務付けられ、域内の軍事産業の発展も促進する。
ロンバール仏経済相は20日、公的金融機関のケース・デ・デポや公的投資銀行(Bpifrance)などが軍事企業の自己資本増のために17億€投資すると発表した。経済相は軍事企業は生産能力増強のために約50億€の新たな資金を必要としていると説明。さらに、Bpifranceは計4億5000万€をもたらす貯蓄商品を発売すると発表。これはダッソー、サフラン、エアバスのほか中小企業も含めた防衛企業向けに国民に一口500€の出資を促すもので最低5年は引き出せない。利子は明らかにされていないが、民間のファンドや銀行もこの商品を売る努力に参加する。
この軍事企業支援は、マクロン大統領が3月5日の演説で有事を想定したかのような国民の結束の呼びかけで軍備強化への国民の努力を求めたのに呼応している。政府は工場事故、気候危機、戦争などの非常時に備える「サバイバル・マニュアル」を夏までに全世帯に配布する予定だが、時期が時期だけに欧州での戦争危機を想定したものと受け取られている。危機を強調する姿勢は、ロシアとの対話を重視した3年前と比べると隔世の感がある。(し)
