世界でも有数のデッサンと版画のコレクションを有するとされるパリの「クストディア財団」(旧オランダ文化センター)。今回、コロナのため中断された3つの展覧会を9月6日まで延長した。その中から作風が対照的な現代オランダ人版画家の個展をふたつ紹介しよう。
Anna Metz – Eaux-fortes -
アンナ・メッツ – エッチング
一つは、自分の心の内面に向かうような作品を創る版画家アンナ・メッツ(1939-)。画学生だった頃や少女時代の思い出を水彩や版画にする。ボナールやヴュイヤールなどアンティミスト(親密派)の流れを汲むような作家だ。
16歳でハーグの王立美術学校に入学し、そこで版画技術を学んだ。結婚後も画家活動を続けたが、離婚し、ハーレムにある父の家を借りて子供と住んだ。しかし母が亡くなってから、家族間で亀裂が生じ、芸術の追求よりも3人の子を養うことが優先事項になった。やっと自分の道を見つけ、才能が自由に開花したのは50歳を過ぎてからだ。布、アルミ箔、紙切れなどを付け加えたり、腐食の度合いを偶然にまかせたりと、実験を続けた。「エッチングは子育てと同じ。導いて、ある時が来たらそれをやめて任せる。ちゃんと地ならしをすれば、より大きな可能性が出てくる」というメッツは、子育てからも版画の道を学んだようだ。
野原で枝だけになった木がたわんでいる冬景色からは幽玄の美が漂う。静物画にも風景画にも、どこかで見たような懐かしさが感じられる。
Siemen Dijkstra – A bois perdu –
シーメン・ダイクストラ 多色木版画
シーメン・ダイクストラ(1968 – )は木版画家だ。複雑に色を重ねて、スーパーリアリズムの風景画を制作する。色に合わせて何枚もの板を使う浮世絵と違い、ダイクストラが使うのは一枚の木版のみ。自然の中で写生したデッサンを木版に写し、少し彫って色を乗せ、一枚目を刷る。
その後、版が完璧に乾いてからまた彫って別の色を乗せる。それを繰り返すうちに彫り込みが深くなり、複雑な色合いになる。オランダ国内が多いが、北欧の風景もある。彼が描くのは特別な風景ではなく、歩いていて目にする日常の自然だが、見ていて頭の中に緑の風が吹くような清々しさがある。展覧会入り口に制作過程を示すビデオがある。YouTubeでも見られるので、展覧会とあわせてお勧めしたい。
Fondation Custodia
Adresse : 121 rue de Lille, 75007 Paris , FranceTEL : 01 4705 7519
URL : https://www.fondationcustodia.fr/
火〜日 12h-18h