『Sing Me A Song』 世界が憧れる「世界一幸せな国」の現在

『Sing Me A Song』 世界が憧れる「世界一幸せな国」の現在
©Nour Films

 
 標高4000m、空に近いブータンの山岳地帯。「大きくなったら立派なラマ(チベット仏教の僧侶)になりたい」。雄大な自然に抱かれ、小さな修行僧は目を輝かせる。観客ははにかむ少年に心和まされる。

だが、映画は非情にも10年の歳月を一瞬で流し去る。8歳だった少年は若者に成長。変化はそれだけではない。僧院生活に電気やインターネットがすっかり入り込んでいる。若い修行僧は読経よりも携帯電話に釘付け。中でも戦闘ゲームが人気らしい。少年はアプリを介し、首都ティンプーに住む歌の上手な娘が気に入り、交流を始める。

 先月に紹介したフランスの映画 『Effacer l’historique』や、Netflixで話題のドキュメンタリー『Derrière nos écrans de fumée 監視資本主義:デジタル社会がもたらす光と影』のように、昨今ネット社会の弊害を描く作品が目立つが、本作もそのひとつ。

ブータンは長きにわたり、国をあげて豊かな伝統文化を守り抜いてきた。だが、1999年にテレビとインターネットを解禁、これが社会を変容させた。とりわけインターネットは、かつて中国人を堕落させたアヘンにも似ている。手軽な快楽を与えるが、一度その味を知るや前に戻るのは至難の技。本作は修行僧の姿を通し、時代の濁流に呑まれゆくブータンの今を見せる。

世界が憧憬の念を抱く「世界一幸せな国」の失われゆく伝統文化を思うとあまりに切ない。だが、すでにネット中毒に陥った私たちが、どんなモラルを大上段から語れるというのか。

監督はフランス人トマ・バルメス。前情報なしで鑑賞したため、あとで本作がドキュメンタリーだと知り驚いた。それほどによくできた少年の成長譚。不意にスクリーンに広がる詩的な時間にも魅了された。(瑞)


 

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