戦争も災害も続き、不安定な世界情勢に心乱される2024年。世界最大の映画祭カンヌ映画祭もなんとか開幕はしたものの、内側から揺さぶりをかけられる不安定な年となっています。映画祭の一週間前には、映画祭で働く300人による労働者団体「Sous les écrans, la dèche」が労働条件の改善を訴えるべく、カンヌ映画祭のスタッフにストを呼びかけました。こちらは期間中にどれほどの影響があるか、まだ注視が必要でしょう。
かねてから注目が注がれる#MeToo運動ですが、こちらも目下火炎瓶が投げ込まれ、さらに延焼中です。フランスでは映画祭の足音が近づいてからは、映画業界の性加害者リストが発表されるとの噂がにわかに流れ、業界は戦々恐々とし出しました。ネット上でリストの持ち主と目されたメディアパルト紙が、疑惑をはっきりと否定。
しかし、それも束の間、すぐに超大物の名前が急浮上しました。その名はアラン・サルド。開幕前日の5月13日、エル(ELLE)誌が突然、9人の女性被害者の証言を掲載したのです。サルドといえば、ゴダールやポランスキー、リンチらの監督作品を製作した大物プロデューサー。これまでカンヌでも50作品が公式招待された、言わばVIP中のVIP。この糾弾劇も映画祭にとっては都合が悪かったことでしょう。
また、ブノワ・ジャコとジャック・ドワイヨンからの性被害を告発し、#MeToo運動の旗手となったジュディット・ゴドレーシュは、2月のセザール賞授賞式に引き続き、今回もカンヌ映画祭に焦点を合わせ、積極的に活動を続けます。
映画祭前日の13日には、パリ14区のCNC(フランス国立映画センター)の建物前で、CNCトップで性暴力で訴えられているドミニク・ブトナの解任を求めるデモに参加。さらに15日には、自身の監督した17分の短編作品『Moi aussi』(=Me tooの意)を〈ある視点〉部門の開幕作品の前に上映する予定となっています。こちらは性暴力被害者の証言を紹介する内容で、女性のみならず、男性被害者の声もあるとのことです。
次から次へと様々な問題が浮上するカンヌですが、渦中の映画祭ディレクター、ティエリー・フレモーは、恒例の記者会見に出席。あくまでカンヌ映画祭での興味の中心は、論争ではなく映画作品そのものであるべきだと主張しました。時代の意識の変化に寄り添い、#metoo運動も基本的にはしっかり支持しながらも、キャンセルカルチャーの波に呑まれ作品上映が中止となる事態はなんとしてでも避けたい、そんな難しい舵取りを迫られているようです。
さていよいよ今晩、カンヌ映画祭はフランスの鬼才カンタン・デュピュー監督の新作『Le deuxième acte』をオープニング作品に開幕します。レア・セドゥ、ルイ・ガレル、ヴァンサン・ランドン、そして今を時めくラファエル・クナールら有名俳優が勢揃いした映画です。
カンヌは数年前から、一般の映画ファンも一緒に楽しめるよう、全国で劇場公開できる作品をオープニング作品に選んできました。近年は特にフランス映画にこだわって上映しています。今年は全国の600館で一斉に上映。劇場によってはレッドカーペットと開幕式中継付きで楽しめます。(瑞)