第70回カンヌ映画祭記者会見報告
記者会見場であるシャンゼリゼ大通りの映画館UGCノルマンディーに入ると、目に飛び込んできたのは真っ赤な公式ポスター。1959年に撮影された女優クラウディア・カルディナーレの躍動感溢れるイメージだ。
実は先日、この公式ポスターが発表された際、彼女のウエストや足元が細めにデジタル修整されたことが物議を醸したばかり。だが眼前のポスターは、どうも腰元あたりがしれっとオリジナルに戻されたようにも見える。3年前にピエール・レスキュールが新プレジデントに就任したのを機に、ファッション大手のケリング社と手を結び、映画祭期間中に女性映画人を応援するイベントを続けているだけに、カンヌにとっては都合が悪い論争だったろう。
2017年はカンヌ映画祭が第70回目を迎える記念イヤー。だが大統領選の騒乱とぶつかるため、メディア対策として、公式作品の発表時期を一週間ほど先倒ししての発表となった。公式招待作品は49本(4月13日現在)。うち9本が初監督作品で、12本が女性監督作品。
中堅実力派ひしめくコンペ部門
コンペ作品18本の内訳をみると、40~50代の中堅実力派が目立つ。ソフィア・コッポラ、ポン・ジュノ、ファティ・アキン、フランソワ・オゾン、トッド・ヘインズ、ノア・バームバックあたりは、普段からハズレの少ない監督なので期待値も高い。2014年に「ある視点」部門のグランプリを受賞した『ホワイト・ゴッド – 少女と犬の狂詩曲』で知られるハンガリーの鬼才コーネル・ムンドルッツォや、NY出身のイキの良い兄弟監督ジョシュア&ベニー・サフディあたりは台風の目になりそうだ。ジャン=リュック・ゴダールとアンヌ・ヴィアゼムスキーの恋愛を下敷きにしたミシェル・アザナヴィシウスの『Le Redoutable』は、かなり怖いもの見たさもあるが、一応楽しみである。
重量級の巨匠は、過去2回の最高賞パルムドール受賞歴を誇る75歳のミヒャエル・ハネケくらい(73歳のジャック・ドワイヨンもいるが、カンヌの常連ではなく重量級とは違うだろう)。全体的にはヨーロッパ勢が多い。総合ディレクターのティエリー・フレモーも会見中に言及した通り、アンドレイ・ズビャギンツェフを筆頭に、コンペと「ある視点部門」を含め、ロシア勢の存在感が強い年でもある。アジアからは常連の河瀬直美、韓国のポン・ジュノ、ホン・サンス(特別上映作品も含め2作を上映)が参加。コンペ内にラテン・アメリカやアフリカ勢がゼロなのは寂しいが、フレモーの言葉を借りれば「カンヌはユネスコじゃない」からしょうがない。
日本人常連監督と学生映画部門の井樫監督
日本勢は前述の河瀬直美監督の『光』以外に、ある視点部門に黒沢清監督『散歩する侵略者』、アウト・オブ・コンペティションの三池崇史監督『無限の住人』と、カンヌ常連の監督作品が並んだ。三池作品に出演の木村拓哉が、公式招待作品の俳優としては『2046』以来13年ぶりにカンヌ入りするかも注目が高まる。また学生映画部門のシネフォンダシオン部門に、井樫彩(いがし・あや)監督(東放学園映画専門学校)の『溶ける』が選ばれたのも朗報だ。
開幕作品はコンペ選外となり「意外」との声も聞かれるアルノー・デプレシャンの『Les Fantômes d’Ismaël』。鬼才アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥが、同映画祭初のVR(バーチャル・リアリティ)作品を手がけるのも見逃せないだろう。審査委員長にスペインの巨匠ペドロ・アルモドバルを迎え、5月17日から28日まで開催予定。
今後は監督週間や批評家週間、公式作品の滑り込み作品の発表も控え、まだまだ一波乱ありそうだ。(瑞)
Festival de Cannes 2017 カンヌ2017公式サイト