ボルヌ首相は7月6日、改選後初めての国民議会で1時間以上にわたって施政方針演説をした。「妥協」を強調しつつも、基本的にはマクロン大統領の政策を踏襲する内容だった。同日夜には上院でも施政方針演説を行った。左派連合Nupesは同日、国民議会に内閣不信任決議案を提出し、11日に採決されるが、国民連合(RN)と共和党は投票を拒否しているため可決される可能性は低い。
国民議会では与党連合が過半数に満たないため、ボルヌ首相は政府の信任投票を行わない方針を事前に明らかにしており、演説中は常時、野党議員がざわめき、首相が声を張り上げる場面も。首相は、政治運営を阻止するのか、建設するのかと議員に問いかけ、「各法案は対話と妥協とオープンの精神で」、法案ごとに歩み寄りや合意を取り付けていく方針を強調した。
具体的な施策としては、国民の購買力向上を最重要課題とし関連法案を提出する、職業訓練と失業給付制度の改革で完全雇用を目指す、医療過疎問題の聞き取り調査9月開始、27年までに5万人の看護師・介護士の新規採用、成人障害者手当(AAH)の受給基準に配偶者の収入を含めないようにする、治安強化のため200の憲兵隊と11の機動部隊増設、売上50万€以上の企業に課される地方税CVAE(企業付加価値税)の廃止による中小企業の競争力増強、不法移民阻止のための国境警備強化などを打ち出した。また、気候問題の緊急性に即して企業、住居、輸送などあらゆる面で抜本的な対策を打ち出すために9月から広く聞き取り調査を行うとした。エネルギーの安全な確保のために仏電力会社(EDF)を国営化することも発表。年金制度改革については、「国民は段階的に少しずつ長く働く必要がある」と改革の意向を維持。大統領の方針である65歳への退職年齢引き上げを明言せず、仕事の苦痛度や就労年数を考慮するとあいまいな表現にとどめた。
EDF国営化やAAH改革、環境保護政策では左派に歩み寄り、治安対策や年金制度改革の維持、膨張した財政赤字の2026年からの削減方針では右派に迎合する姿勢を見せた一方で、「服従しないフランス党(LFI)」やRNとは妥協しない姿勢を暗に示した。
ボルヌ首相の演説に対し、ルペンRN党首は、政府は「統治不能」な状態にあり、ボルヌ続投は「政治的挑発」と激しく反発。LFIも、信任投票に付さないのは「逃げ」と厳しく批判した。共和党は安易な妥協はしないとした上で、政治的麻痺状態も望まないとした。ボルヌ首相が、マイナス成長でなく技術革新と新規産業と雇用創出による気候変革を行なうと発言したこともあり、ヨーロッパ・エコロジー=緑の党(EELV)は気候市民会議の成果を無に帰す政府の環境政策は歴史的過失だと批判した。
改選後の国民議会では、再生党(共和国前進)のヤエル・ブロン=ピヴェ氏が初の女性議長に選出されたほか、6人の副議長は与党2人、RN2人、LFIと社会党が各1人ずつ選ばれた。財務委員長にはLFI/Nupesのエリック・コックレル氏がRN候補を破って就任。
4日に発足した第2次ボルヌ内閣には、18日からの購買力向上措置案の国会審議が第1の関門になりそうだ。(し)