人類博物館が、先史時代の絵・彫刻・オブジェを世界的規模で俯瞰 (ふかん)し、現代のアーティストへの影響に言及した展覧会を開催している。
先史時代の洞窟壁画の発見は19世紀に始まった。1879年に2万〜1万1千年前のアルタミラ洞窟壁画が、1940年に2万〜1万8千年前のラスコーの壁画が発見された。1994年に発見されたショーヴェ洞窟はそれよりずっと古く、3万8千〜3万3千年前のものだった。
欧州のものが有名だが、アメリカ大陸、アフリカ、ロシア、中東、インド、中国、韓国でも先史時代の壁画が数多く発見されている。つまり、壁画は世界中に散らばっているのだ。絶壁や野ざらしの岩に描かれたものもある。2017年にインドネシアのスラウェシ島で発見された壁画は世界最古の4万5500年前のものだ。
会場では、これらの場所を写したビデオが大画面に映され、一挙に多くの宝の山に連れてこられたような衝撃を受ける。別のビデオでは、異なる国で発掘された似た様式の絵が同時に映し出される。
染料と水を口に含み、壁に乗せた手の上から吹き付けて描いた手は、時代と地域を問わず出てくる。動物を描くとき、脚に遠近をつけたり、鉱物染料と植物染料を混ぜて色を作ったり、壁の凹凸を利用して動物の体にボリューム感を出したりと、技術を工夫する点は現代のアーティストと全く変わらない。
会場は3部構成で、ビデオは後半の第2部にあるが、こちらを先に見たほうがインパクトが大きいだろう。
第1部は 「移動可能なアート」の展示室だ。何の目的で作られたのかわからない小さな彫刻のオブジェが並んでいる。ほとんどが欧州の発掘品で、素材は動物の骨や角、象牙、石。動物の姿や幾何学模様が細い線で彫られている。
小さな女性像は、「ヴィーナス」と呼ばれるカテゴリーのもので、胸やお尻を強調したものと、強調せず幾何学的造形に近いものがある。その中でスター級の作品が「レスピューグのヴィーナス」だ。1922年にオート・ガロンヌ県で発見された、マンモスの象牙で作られた2万7千年前の彫像だ。発掘時に破損し、胸の一部が欠けている。乳房は太腿につくほど大きく垂れており、お尻も大きく出っぱっている。彫像を逆さにすると背中のお尻の下に刻まれた腰布の模様が髪の毛になり、別の女性が現れるという二重性を持つ、不思議な彫像だ。
このヴィーナスに魅せられた近代・現代のアーティストの作品が第3部で、第2部の展示室を出たところにある回廊で展示されている。ミュリエル・ドカイエはストッキングに詰め物をしたり猫の毛を丸めて球形にしたものを集めてヴィーナスを作った。ルイーズ・ブルジョワの作品は、腕がなく、頭が棒のように長い妊婦像だ (右上の写真)。(羽)5/22まで。
Musée de l’Homme
Adresse : 17 place du Trocadéro, 75016 Parisアクセス : M°Trocadéro
URL : http://www.museedelhomme.fr
火休、 11h-19h (2/9は-18h)。 13/10€ ☞2月8日からは同じ階で 「ピカソと先史時代」が開催 (6/12まで)。先史時代と現代アートとの関わりをより強調した展覧会になりそうだ。