ART DECO 1925-2025
1925年、パリで現代産業装飾芸術国際博覧会が開催された。通称〈アール・デコ万博〉。1910〜30年代にかけてフランスを中心に、建築、家具、モード、グラフィック、彫刻などの分野で装飾デザインを一新し、世界に伝播した装飾様式「アール・デコ」の名の由来となった博覧会だ。今年は「アール・デコ」誕生100周年にちなんで、全国で展覧会が開催される。先陣を切ってふたつの展覧会が始まった北フランスの街、サン・カンタンへ行ってみよう。
Élégance et modernité – l’Art déco a 100 ans
エレガンスと現代性、アール・デコは100歳!展

「サン・カンタンはフランス最初のアール・デコ都市」と、本展キュレーターのエマニュエル・ブレオン氏。第一次世界大戦後、爆撃で焼け野原とかしたランスと同様に、国内でいち早くアール・デコ様式で再建が進められた町だからだ。「エレガンスと現代性」展の会場も、戦後再建されたかつての百貨店。今は 「アール・デコ宮」と呼ばれる展示スペースだが、大きな吹き抜けのホールは金色に輝くヤシの葉の装飾が贅沢で華やか。この展覧会に、これ以上ふさわしい場所はないだろう(写真上)。
展示は、1925年の万博に設けられたパビリオンと、そこに出展されたものを見ながら100年前の万博会場を訪れるという設定だ。万博地図を見ると、セーヌ左岸アンヴァリッドから、右岸のグラン・パレとプチ・パレ周辺一帯が会場になっている。

Pavillon du Collectionneur Musée des Arts décoratifs, Fonds Edition Albert Lévy, inv. EAL 1-18
© Photo distr. Les Arts Décoratifs / éditions Albert Lévy
アンヴァリッド前の 「フランス大使館パビリオン」は、当時随一の装飾家や建築家が、想像の大使館をアール・デコ様式で創った。ロベール・マレ=ステヴァンスの入口ホール、ピエール・シャロー作の書斎、ジャン・デュナン作の漆塗りの喫煙室、東京・目黒の庭園美術館を手がけたアンリ・ラパンによる食堂…。そこを出るとセーヴル製陶所館、高さ15mのガラスの噴水があるガラス作家のラリック館。アンリ・ソヴァージュ設計によるプランタン百貨店の 「プリマヴェーラ館」。ボン・マルシェやギャラリー・ラファイエットのパビリオンもある。
アレクサンドル3世橋の上にはブティックが立ち並び、ファッション、アクセサリー、香水、斬新な家具などが人々を驚かせた。クチュリエのポール・ポワレはセーヌに船を三艘浮かべてパビリオンに (じきに破産してしまうのだが)。革新を競い合う会場にはル・コルビュジエの 「エスプリ・ヌーヴォー館」もあったが、日本館は伝統的な数寄屋造りの和風建築だったから、逆に人々は驚いたかもしれない。100年前の狂乱の時代気分に浸った後は、この町のアール・デコ散策*に出かけよう。


個人コレクション


Palais de l’Art déco:
14 rue de la Sellerie, Saint-Quentin
チケット購入はMonoprixの隣、Espace Saint-Jacques内。展示入口は2階のMusée des papillonsの奥左。9/21まで
8€/5€/18歳未満無料。月休、火〜日 14h-18h

*オヴニー「サン・カンタンのアール・デコ散策」特集
(2023年947号)もご覧ください。
ovninavi.com/saint-quentin_balade-artdeco/
Gaston Suisse (1896-1988) de Nature et d’Or
ガストン・スイス 自然と黄金

ガストン・スイスは、ジャン・デュナン、アイリーン・グレイらと並ぶヨーロッパを代表する漆工芸作家。幼いころから父親が蒐集していた日本と中国の美術書を見て育ち、パリ植物園に通って動物や草花をスケッチし、のちに動物画家として大成した。本展では、植物とサギ、白イタチ、金魚などを、漆とは思えない質感と緻密さで表した装飾パネルや、アール・デコ調の幾何学モチーフの家具、屏風などを見ることができる。
ヨーロッパでは17世紀から漆器が賞賛されたが、当初はオランダがアジア漆器の通商を独占していた。早くも1680年にはベルギーで、1730年にはフランスで漆をまねた塗料が開発されるほど関心が高かった。スイスはパリ装飾美術学校で漆の基礎を学んだが、パリの湿度では漆が乾燥しにくいため(漆の乾燥は高い湿度が必要)油や溶剤を混ぜて乾燥時間を短縮したり、魚のウロコを挽いて混ぜ独特の光沢を得るなどの研究を重ねた。この時代、円熟に達したフランス漆工芸の立役者のひとりだ。(9/21まで)。

Musée des Beaux-Arts Antoine Lécuyer :
アントワーヌ・レキュイエ美術館
28 rue Antoine Lécuyer 02100 Saint-Quentin
上出アール・デコ宮(Palais de l’Art déco)までは徒歩10〜15分。月休、火〜日 14h-18h。
水と土は午前中開館10h30-12h30。
5€/2.5€。
当館+アール・デコ宮+蝶博物館=10€。
★展覧会場となっているアントワーヌ・レキュイエ美術館は、サン・カンタン出身の画家モーリス・カンタン・ド・ラ・トゥール(1704-88)のコレクションで有名。ヴォルテールやルソー、ポンパドゥール夫人、自画像などパステルを使った軽やかで柔らかな色彩の肖像画が常設展で見られる。


Palais de l’Art déco
Adresse : 14 rue de la Sellerie, Saint-Quentin , Saint-Quentin , Franceアクセス : パリからは、北駅Gare du Nordから電車で1時間40分ほど。1日に12本ほど運行されている。
URL : https://www.destination-saintquentin.fr/wp-content/uploads/2021/12/Parcours-Art-deco.pdf
チケット購入はMonoprixの隣、Espace Saint-Jacques内。展示入口は2階のMusée des papillonsの奥左。9/21まで 8€/5€/18歳未満無料。月休、火〜日 14h-18h。
