フランスの国際養子縁組における不正行為に関する報告書が2月6日に公表された。仏外務省の協力のもとにアンジェ大学の2人の歴史学者が実施した調査の報告書は、少なくとも2009年頃までは「常態化した違法行為」が多くの国で行われていたと批判している。
政府認可の個人や協会に違反行為
この調査は外務省の文書、各種の調査研究、養子縁組仲介者の過去の文書などを精査したもので、外務省の認可を受けた国際養子縁組を仲介する協会あるいは個人による養子縁組で、人身売買、金銭のやり取り、文書偽造、誘拐、実親に対する親権放棄の強要、孤児の捏造などが1979年以来、約20ヵ国で行われていたとしている。
そのなかには、1994年にヴェトナムで某協会が金銭援助と引き換えの養子縁組を仲介したことで現地の仏領事から批判されながら09年まで外務省の認可を得て1万2100件の養子縁組を実施した例、ブラジル(養子縁組6350件)では在留仏人が養子縁組をビジネスにしていると91年に現地の仏領事館が指摘した事実などが記されているという。現地のいかがわしい仲介業者の存在や、グアテマラやスリランカで人身売買の疑いがあったことなども指摘されている。ところが、90年以降に外務省が協会の認可を取り消したのは7件のみだ。
フランスは1972年以降、約12万人の外国人の子どもを養子に迎えている。2000年代初めの年間4000件をピークに減少に転じ、2022年はわずか232人。国連とユニセフが国際養子縁組に誘拐がからむケースがあると2000年に報告書を出したことや、出身国内における適切な監護ができない場合にのみ国際養子縁組を奨励するハーグ条約(1993年)を国内法に移転した2005年の法律を受けて規制が厳しくなった。22年2月には個人による国際養子縁組は禁止され、外務省から認可を受けた協会あるいは、仏養子機関(AFA)を通してしか国際養子縁組はできなくなった。
養子でもらわれた子による告訴も
近年になって国際養子縁組に関する告訴も出てきた。マリからフランスに90年代に養子としてもらわれた9人が、一時的にフランスに引き取られるだけと実親がだまされたとして20年6月に国際養子縁組協会「Rayon de soleil de l’enfant étranger」を告訴。これを受けて、パリ検察局が詐欺隠匿容疑で21年に捜査を開始したが、時効のために進展がないという。同協会は70年代末以降、アフリカ諸国、中南米を中心に7千人の子どもの養子縁組を扱っていたが、外務省は昨年12月、同協会のあらゆる国での認可を取り消した。
また、昨年11月には、グアテマラから81年に養子縁組でパリに来た兄弟が、自分たちは誘拐されたとして「Les Amis des enfants du monde 」という協会と国を提訴し、損害賠償を求めている。この件も時効になるだろうが、兄弟は被害者団体を設立し、国連関連機関からも批判されている時効問題の改善を求める意向だ。こうした動きを受けて、仏政府は昨年11月に国際養子縁組における違法行為についての調査を開始している。
上記の報告書を執筆した歴史学者イヴ・ドネシェール氏は、違法な国際養子縁組が存在する背景には、金儲けに走る仲介人の存在が大きい一方で、子どもを持ちたい一心や人道主義から子どもを救いたいという受け入れ側の動機もあると指摘する。フランスで育ったほうが子どもにとっては幸せだろうという考え方自体にも問題はあろうが、たとえそれが善意からであっても、人身売買や誘拐、文書偽造などの違法行為に目をつぶったり、それに加担することは許されないことだろう。こうした状況を生む南北問題が解決されないなら、国際養子縁組の違法行為を取り締まる規制が有効に働くような方策がとられるべきだろう。(し)