「マクロン大統領は金持ちの味方」と野党や労組からたびたび揶揄されてきたが、昨年12月に国会で成立した今年度予算に盛り込まれた税制改革が今年1月からいくつか実施されている。それらは本当に富裕層に有利なのだろうか?
2018年からの税制改革
まず、これまでの富裕税(ISF)が不動産富裕税(IFI)に転換された。ISFは130万ユーロを超える純資産にかかる0.5~1.5%の累進課税だったが、これが廃止され、IFIでは同額以上の不動産資産が対象となる。株式、債券などの金融資産は対象とならないので、そうした資産を多く持つ企業主や「超富裕層」に有利となる。
さらに利子、株式、債券、生命保険などの金融商品からの利益(インカムゲイン)への課税が30%の一律徴収税(フラット・タックス)となった。インカムゲイン課税は従来、一般社会貢献税(CSG)や所得税として徴収され、最高60%の累進課税であったが、改正によって税務手続きが大幅に簡素化されるほか、高収入世帯への課税が軽減される。ただし、多くの国民が持つ「リヴレA」や8年以上経過した15万ユーロ未満の生命保険は除外される。
社会保障制度の赤字を補填するための一般社会貢献税(CSG)は1月から、給与等の収入に対しては7.5%から9.2%に上がり、年金へは6.6%から8.3%へ(65歳未満の年金には9.2%)、資産収入などには9.9%となる。しかし、給与所得者はCSG上昇の代わりに健康保険の被雇用者負担(0.75%)と失業保険負担(2.4%。1月と10月の2段階に分けて)が廃止されるので、手取り給与はやや増える。ただ、年金生活者はこの恩恵に浴さないのでCSG率引上げに反対していたわけだ。控除後所得額が1人世帯で1万4404ユーロ、夫婦で2万2096ユーロ以上の年金生活世帯はCSG上昇の影響をもろに受けるが、それ未満の世帯の税率は65歳以上なら3.8%のままだ。
そのほか、1月から変わったものとしては、一人世帯で控除後所得額が2万7千ユーロ、夫婦と子ども2人の4人家族で同5万4千ユーロ未満の世帯(全世帯のほぼ8割に相当)の住居税が3分の1減額され、2020年にはゼロになる。
フランス景気観測所による分析
ル・モンド紙が1月15日に報じたフランス景気観測所 (Observatoire français des conjonctures économiques) の分析によると、マクロン政権がこれまでにとった税制改革は、富裕層のなかでも特に上のクラスに有利なことは確かなようだ。
それによると、国民のうち最も裕福な5%の世帯は今年、可処分所得が1.6%(1760ユーロ)上がるのに対し、最も貧しい5%の世帯は0.6%(60ユーロ)しか上がらない。2019年末までならそれぞれ2.2%、0.2%上昇になる。逆に特に資産を持たない裕福な世帯の可処分所得は0.4%下がり、中流家庭のそれはほとんど変わらない。
ISF廃止とフラット・タックスの導入で、マクロン大統領は「生産的経済」への投資を促進し、経済を活性化させるのが狙いだという。「超富裕層」がその通りの動きをするのか、その効果が出てくるとしても少し先のことだろう。住宅手当の減額、公的支援付雇用の減少、軽油値上げなどは庶民の購買力を低下させるだろうし、地方公共団体の予算減など間接的な負の影響もある。
「超富裕層」に有利な政策が経済活性化に貢献して、国民全体の購買力を押し上げていくのかどうか、行方を見守っていくしかないだろう。(し)