荷物がまとめられたバルセロナのアパート。6歳の少女フリーダは、促されるまま家を出た。走り出す車を追いかける友だちを、冷めた目で眺める。行く先は森に囲まれたカタルーニャの家。養子として引き取られるのだ。
カメラは子供目線で、新生活を始める少女に寄り添う。時は1993年。まだエイズがタブー視されていた時代、フリーダの両親はこの病で命を落とした。彼女を引き取るのは、3歳の一人娘アンナがいる母方の叔父夫婦。彼らは十分に親切だが、フリーダは寂しさから、実の親に思いっきり甘えられるアンナに嫉妬する。大人に優しくされても素直になれない。髪の毛を整えてもらっても、車から櫛を投げたりする。大人も頑なな養子を我が子として愛することができるか試される。幼く無垢なアンナは、たとえ意地悪をされても、「私のお姉ちゃん」と慕ってくるのがいじらしい。
たまに家や外出先で、大人たちのコソコソ話が漏れ聞こえてくる。これがなんとも生々しい。「かわいそうな子」「子供を引き取って偉いわ」。見ているこちら側まで、そういえば昔、子供だと思って大人から無神経に振る舞われたこともあったなと、苦い記憶を掘り起こされそう。フリーダはそんな大人の無神経さに反応するわけでもなく、表面上は淡々とやり過ごす。だが小さな胸は悲しみに侵食されているのだ。ある日フリーダはアンナを森に連れていくのだが……。
エイズで親を亡くしたスペイン人カルラ・シモン監督の自伝的作品。ジャック・ドワイヨン監督『ポネット』の系譜に連なる児童映画の新たな秀作の誕生だ。懐かしい家族アルバムをめくるようなノスタルジックな映像も心に沁みる。ベルリン映画祭で最優秀初長編作品賞を受賞した。(瑞)