『Album de famille』
長編1・2 作目が対象のカンヌ批評家週間は、未来の巨匠の発掘にうってつけの場。古くはジャック・タチやアラン・レネ、2000年以降はアレハンドロ・G・イニャリトゥやジェフ・ニコルズを輩出した。映画『Album de famille』は昨年の批評家週間で紹介された一本。監督は1988年生まれのトルコ人メメ ・チャン・メルトル。
水族館でパチリ、浜辺でパチリ。大きなお腹の妻とその夫は、旅行先で記念撮影をしている。よくある風景と思いきや、実は妻は妊婦の「フリ」。彼らは養子を迎えるため、アリバイとなる家族アルバムを作成中なのだ。監督によるとトルコでは不妊症を恥じる空気が根強い。だから彼らも不妊の事実を隠し、養子を実子として育てることにしたのだ。
「公式の歴史」なるものは怪しい。「ポスト・トゥルース」という言葉が生まれるはるか昔から、歴史は勝者の目線で作られてきたのだろう。だが現代は写真やSNSを駆使し、個人が「公式の自分」を発信する。事実をねじ曲げ、個人史の上書きもできる。考えてみれば奇妙なものだ。
家や職場、街中や公園と、一見平凡な景色が続く。だが監督の感性のフィルターを介せば、平凡な風景はどこか異様なものとして浮かび上がる。公園の遊具で遊ぶ大人、「子供は未来」と刻まれたスローガン、一緒にいても語らぬ人々…。優れた監督はたとえ平凡な風景でも、世界を眺める別の角度や新しい視点を用意できる。トルコ人監督ながら、滑稽さと深刻さが同居する北欧のじわじわ系ブラック・ユーモアの空気感に近い。彼こそロイ・アンダーソンやアキ・カウリスマキの「養子」と言えそう。画面の地味さにひるまず、青田買いして応援したい才能だ。(瑞)