アルマ橋のたもと、ケ・ブランリー通りとラップ大通りの角に、1950年代調の、いかめしいフランス気象局の建物があったことを覚えている人は少ないかもしれない。解体されて久しいが、ここ2年間、急ピッチで新しい建物の工事が進行し、夏からは金色のマカロンの形をした、大小5つの冠が太陽に照らされて鈍く光っている。
10月19日にプーチン、オランド両大統領立会いのもとに竣工予定だった、ロシア正教会・教育文化センターである。シリア紛争を巡って両国間に亀裂が生じ、プーチン訪仏は見送り、同大統領欠席で式典が行われる。ロシア政府が総工費1億7千万ユーロを全面的に出資して建設された。
批判と波紋を呼ぶのは、ロシアはフランスと同様に世俗主義国家でありながら、100%政府の出資で教会が建設され、運営・管理されるという点だ。併設の教育と文化施設も在仏ロシア大使館の管轄だ。
また、公募の国際コンペティションでロシア出身のスペイン人建築家の案が選考されたが、当時のドラノエ・パリ市長が「これ見よがし」的な案と、ガラスの巨大パネルが危険であると指摘し、建設許可が下りなかった。そこで、最終選考に残った10案のなかからフランス人ジャン=ミシェル・ヴィルモットの案が選ばれるという経緯をたどった。ここでも、政治的な衝突や軋轢(あつれき)が生じたことは間違いない。
ヴィルモット氏の設計案は、「パリの都市環境に馴染んでいながら、大胆」と、高い評価を受けた。教会の外壁は、ブルゴーニュ地方のマサンジス、ロシュロン、コンブランシアンで採石される石灰質の石材で、トロカデロ広場やアルマ橋にも使用されている建材だ。このプロジェクトでは、70パターンの断面加工が施され使用されている。
ネストール大司教により祝別された5つのドームは造船の技術を用いて造られ、軽量で耐久性にも優れている。ヴェルサイユ宮殿などの金箔を手がけた金箔師が仕上げた。建物の4角にガラスブロックが宝石のように埋め込まれているのは、レアールの「キャノぺ(冠)」のガラス意匠を手がけた職人によるものだ。細部にもフランスの産業と伝統技術の見事なチームプレーが発揮されている。建築は、政治力に影響されるものだが、現場で日々プレッシャーに煽られ作業に従事する人々が、まず評価されなくてはならない。そして、建築は 「団体競技」であること忘れてはならない。
現在ヴェルサイユ市では、ヴィルモット氏 ・ 40年間の建築展が開催されている。会場は、氏が自ら内装改修工事を担当したリショー館だ。本展のオープニングで「我々の仕事は、小さなオブジェや内装から、建築や都市空間の設計に至る。スケールの大小にかかわらず、新たな挑戦が可能なプロジェクトに挑んでいきたい」と、 ヴィルモット氏は言葉を噛み締めた。 (浦)
■ 40 ans de création de Wilmotte & Associés Architectes
Espace Richaud
78 bd de la Reine 78000 Versailles
11/27まで 水~日、12h à 19h。入場無料。
駅からは徒歩15分。