バカンスの時期になると、フランスではキャンプ場からキャンプ場へと走るキャンピングカーとよくすれ違う。レイモン・ドゥパルドンもまた、気ままなキャンピングカーの旅がお気に入りの様子。だがドキュメンタリー界の巨匠の車は、よそとはちょっと違う。35mmフィルムのカメラを備えた、”動く撮影スタジオ”なのだ。そんな自慢の車で全国を横断、市井の人々の言葉を記録した。
撮影地はニース、フレジュス、サン・ナゼール、シェルブールなど、全15の中型都市。撮影のルールは明確だ。被写体は二人組。撮影時間は一組30分。完全なるフリートークで、監督から質問はしない。簡易なテーブルと椅子を用意し、固定カメラで撮影。同じ町に3日以上留まらない等々。
登場するのは老若男女と様々。地方ごとの訛りが心地よい。町中ですでにお喋りしていた人々に監督が直接声をかけ、「話の続きを撮らせてほしい」とお願いしたという。こうして恋人や友人同士、夫婦や親子ら90組180人を撮影し、最終的に26組52人の会話を収めた。
孤独について語る老人、友達に「ダメ男と別れろ」と諭す女性、都会暮らしの息子に寂しさを吐露する母、恋愛の駆け引きを楽しむカップル……。どこにでもありそうな人間ドラマが、時に軽やかに、時に深刻に繰り広げられる。彼らは驚くほどカメラの存在には無頓着だ。かつてカフェやビストロで実際に発された言葉を集めた本「Brèves de comptoire」がベストセラーになったが、本作は単なる言葉採集を超えた、普通の人々へのリスペクトがある。飽きもせず繰り返される人間の営みを包み込むように、車外では初夏の風が優しく揺れ、木漏れ日がさしている。
かつて写真家集団マグナムに所属し、時代の証人として世界を股にかけ活躍していたドゥパルドン。だが近年は自身の足元を見つめ、地方の普通の人々にカメラを向け、どこまでも自由な映画を涼しい顔で発表し続ける。淡々と国道を進む白いキャンピングカーは、まるで我が道を行く監督そのものだ。(瑞)