昨年もこの時期にドメスティック・バイオレンスDVについて書いたが、11月25日は国連が1999年に定めた「女性に対する暴力国際予防デー」であるだけでなく、フランス社会を蝕む深刻な問題として新たに取り上げてみたい。
パリ各所の地下鉄ホームに、「黙っていると暴力があなたを殺す ! 」と、市民に注意を促す大きなポスター(写真)が貼られている。08年は156人、09年は140人の女性がDVで殺されており(児童10人)、2日半毎に平均1人の女性が家庭内暴力で殺害されているのは周知の事実。
軽罪監視局の統計によると、09年に肉体・性的暴力を受け、届け出た女性は65万4千人にのぼる(前年比+15%)。そのうちの約30万5千人は家庭内暴力を受け、家庭外での被害者は約44万5千人。さらに
1日約200人 、年間7万5千人の女性が強姦(ごうかん)の被害を受けているという。そのうちの46%は近親者により、17%は同僚や友人・隣人、5%は夫・同棲者による(この場合は警察でも捜査が困難)。つまり70%近くは知り合いによって犯されており、見知らぬ男による強姦は27%。後者の場合は警察に届け出られることが多いが、知人・近親者による強姦が届け出られるのはまれで、被害者の90%は口外せず黙してしまうという。
このような状況に対して国際予防デーに「強姦と闘うフェミニスト団体」が掲げた〈貴女の敵は羞恥心 ! 〉のスローガンに100人余の女性文化人が署名、「強姦を黙認するフランス社会を告発する…強姦こそ女性蔑視の表れ」と糾弾のマニフェストを発表。
DVは最初は突発的でも、家庭内の男女の力関係が崩れ、加速度的に頻度と激しさが増していく。〈CNEDFF 女性・家族の権利情報センター〉のギルベルトー代表はルモンド紙(11/27)のインタビューで、「重なるDVが恐怖心を植えつけ女性の自我まで破壊し、被害者は家族・友人にも話せず社会的にも孤立していき、夫・同棲者への心理・経済的依存性が高まる。…居留まれば地獄、去れば去ったで底知れない空白に直面せざるをえない。男の詫び言葉に惑わされ日常的暴力に折れることと、暴力を認めることを混同してはならない」と強調する。
7月1日に女性緊急保護法案が国民議会満場一致で成立、10月1日より施行された。この法令オルドナンスとは、DV被害者と、親族に強制婚姻を迫られるマグレブ・アフリカ系女性を緊急に保護するほか、精神的暴力も軽罪とみなす。再度暴力を振いかねない男性には電子ブレスレットを試用させるなど。
1972年に設立された組織CNEDFFは、全国1200カ所に情報センターを設置(08年の相談件数88万件)、DV被害者を家から避難させるため子供と共に宿泊できる宿泊施設も完備。が、そのあとはどうするか…。八方ふさがりの窮地に追い込まれた女性が自我を取りもどし自信を育てていくには、かなりの時間と家族・友人らの援助が不可欠といえよう。(君)