映画祭が「ちょうど良い時期に良い賞」を監督に与えるのは意外と難しいことなのだろう。たいていは遅過ぎるか、ブレてるか、必要ないか…。前回のカンヌ映画祭もほぼそのどれか。だが目を凝らせば「ちょうど良い時期に良い賞」をもらった監督もいることはいる。批評家部門の『Le Père de mes enfants』で特別賞を受賞したミア・ハンセン=ラブはその例。28歳。透き通る肌を持つ(多分)物静かな美女。カイエ派というブランド力で正統っぽささえにじませる。でき過ぎな感もあるが、今後フランス映画の担い手の一人になるだろうから、映画好きならそろそろ名前を覚えておくころか。
キャリアのスタートは女優から。映画『八月の終わり 九月の初め』と『感傷的な運命』でスクリーンにさっそうと登場。アサイヤス監督はまだ10代のミアにイチコロに? その後は国立演劇学校に入学するも、2年後にカイエ・デュ・シネマ誌の批評家に転向。カイエ的な土壌に感染するように監督を志し、07年に初長編『Tout est pardonné』を完成。ルイ・デリュック新人賞も受賞し幸先の良いスタート。続く2作目が今月公開の『Le Père de mes enfants』。前作同様、悲劇すら丸ごと包み込む慈悲深いまなざしで、危うい家族の物語を美しく紡ぎ続ける。(瑞)
●Le Père de mes enfants
2005年の冬、映画に殉死するように自死を選んだインディペンデント系作品のプロデューサー、アンベール・バルザン(オヴニーNo631参照)。彼に目をかけられていたミア・ハンセン=ラブによるバルザンと映画へのオマージュ。とはいえ現実の再構築ではなく作家の想像性が自由に羽ばたいている。
バルザン似の男は、最愛の家族を残しふと人生を降りてしまう。ここで物語に終止符は打たれず、「そして人生は続く」とばかりに、残された家族たちによる等身大の日常がはじまる。アイヒェンドルフといった詩人を愛する監督のロマン主義への共感からか、フランス映画にまん延するリアリズム病から解き放たれた不思議な味わいが魅力。(瑞)