カザフスタンのセルゲイ・ドヴォルツェヴォイ監督の『Tulpan』は、昨年のカンヌ「ある視点」部門賞を皮切りに東京国際映画祭のグランプリ他、世界各地の映画祭で賞をとりまくっている。その人気の秘密は…? 素朴さ! 大自然と共に生きる人間の自然な営みを真っ直ぐに描いて力強い。
主人公のアサ(この俳優、爆笑問題の太田光そっくり)は兵役で海軍にいた。水兵服姿の彼がタコの話をしている。所は大高原のど真ん中のユルト(パオ:テント式移動住宅)の中。話を聞いてる人たちはタコを見たこともないし一生見ることもないだろう。彼らは中央アジアのステップに暮らす遊牧民なのだ。アサはここに嫁さんをもらいに来た。彼の夢は、家庭を築きユルトと羊の群れを所持した一人前の遊牧民になることだ。まずは嫁がいる。この一帯に適齢期の女性はTulpan(チューリップ)ちゃんただ一人なのだが、彼女はアサとは結婚したくないらしく姿も見せない。彼女のお断りの理由は一応「彼の耳が大きくとんがっていて嫌い」ということ。失恋(?)したアサは、妹一家のところに身を寄せざるをえない。なかなか可愛い妹は、年の離れた夫との間に三人の子持ち。夫はアサが鏡にしてもよいような立派な遊牧民だが、居候のアサは肩身の狭い思いをする。悩んだ末、アサはチューリップちゃん獲得に再挑戦するが…。
見どころは、やはり遊牧民の生活か。見渡す限り何もない乾燥した大地を「なんて美しいんだろう。カザフ万歳」と言う。人間、生まれ育った土地が一番だ。ときどき竜巻が起こる。風が強い。砂まみれになりながら財産である羊の群れの世話をする。人間の言うことを簡単に聞かない家畜、馬やロバやラクダが可笑しい。何より子供が正しく子供らしくあることに妙に感動した(吉)でした。(吉)