当選前はクリントン的とも、イラク戦争でも独断直行型のブレア前英首相に似ているとも評されたサルコジ大統領。だが驚くことに、当選翌日の5月7日に労働組合代表らを、11日には教員組合代表を内務省に招いて公約を説明し、就任前日の15日、トゥールーズのエアバス社員削減計画で彼らを励ましに行き、6月7日からのG8サミットでは新仏大統領としてプーチン大統領とも仲良く旧友のように振る舞い、14日には、1週間後に開かれるEU首脳会議に彼が提案する「EU憲法改革条約」に反対するヤロスワフ・カチンスキ・ポーランド首相にワルシャワまで談判に行き、双子のレフ・カチンスキ大統領には同条約の施行時期を延ばすことでメルケル独首相と二人三脚の交渉に成功。まさに万能マルチ大統領と評されてもおかしくない。 それだけではない。大統領選挙中にベッソン元社会党経済担当がロワイヤル前大統領候補の悪口を公言し本にも書き、敵側サルコジ陣営に転がり込んできたことに気をよくした大統領は、左派政治家の引き抜き作戦を開始。まず社会党の人気フレンチドクター、クシュネール元保健相に白羽を立て外相に任命、ストロスカーン同党元経済相を国際通貨基金IMFの専務理事に推し、ジャック・ラング同党元文化・教育相は、新設の「第5共和制改革委員会」の委員長補佐(委員長はバラデュール元首相)に抜擢。崩壊寸前の社会党が再建の芽を出す前にトンビが油あげをさらうように12人余りの左派政治家を与党大統領陣営に抱き込む。 その間、フィヨン首相は何をしているかというと、数年来ジョギングの相棒としてサルコジ大統領に「君は脚、僕は頭」と、絶対にたてつかない補佐として大統領の「カカシ」役に。昔から首相は大統領のヒューズ役として、大統領が決定し、それを執行する役なのだが、例えば学長代表らの反発を買った大学改革案についても、反対の壁を切り崩すために大統領が自ら改革案に手を加えるという、フィヨン首相やペクレス大学改革相も立つ瀬がない、独裁的ボナパルト主義を実行しているのである。今やスーパー大統領兼首相のイメージが定着(フィヨン氏もラング氏も首相を不要と考えているよう)。 全身全霊フル回転のサルコジ大統領は週末、ヴェルサイユ宮殿敷地内にある首相用のランテルヌ館でセシリア夫人と子供とで過ごし、週末行き場のなくなったフィヨン首相はランブイエ宮殿で過ごすそう。こうした面でもサルコジ大統領をバイルー中道民主運動党首は貪欲な淡水魚「ピラニア」に喩える。息子ルイ君は「ルイ・ドーファン」(第一王子)の愛称で呼ばれているそうで、サルコジ大統領は夢の中で「朕は国家なり」と呟いているのでは。(君) |