63年、保守的ムードが蔓延するアメリカ西部。ジャックとエニスは、ひと夏、羊番として雇われることに。木々の囁き、川の煌めき、月の影。雄弁な大自然に抱かれ、粗野なカウボーイの心にも、温かな火が灯り始める。だが火はいつしか、友情から愛情の炎へと変わり、激しく燃え上がることに。 ハリウッドで最も成功を収めているアジア人監督、台湾人アン・リーの新作。ジャンルを問わず多様なテーマに果敢に取り組む監督が選んだのは、「カウボーイ同士の禁断の愛」。難しいテーマを、ほぼ誰でも感動できる普遍的な愛の形にまで高め、描いてみせた。男二人はそれぞれに家庭を持ちながらも、互いに忘れられず20年の時が過ぎる。本当に愛する人が誰かを知りながらも、立ちすくむのみ。人生の悲哀と不条理が、心に痛い。(瑞) |
|
● Ce n’est pas tout a fait la vie dont j’avais reve ブルジョワで古めかしいアパートに閉じこもる妻と、キッチュでグロテスクな装飾のアパートに住む愛人の間を嬉々として行き来する一人の老人。孫と戯れる時には少年のよう、愛人とふざけあう時には青年のよう、そして妻といる時、その死に対面する時、主人公の表情は苦々しく年老いた男のそれに急変する…。監督はミシェル・ピコリ。(海) ●Un couple parfait |
|
|
|
Laurent Cantet (1961-) 市場の原理を前にすれば、質の高い作品でも必ずしも日本に配給されるわけではない。当然のことではあるが、ローラン・カンテはそんなことをふと思い出させる監督の一人だ。 99年、週労働35時間制への移行時に人員削減を企てる工場を描いた『Ressources humaines』で長編デビュー。続く01年には、解雇された企業戦士が、嘘を重ね身動きがとれなくなるドラマ『L’Emploi du temps』を発表。ベネチア映画祭で金獅子賞をさらう。この受賞の影には、審査員だった蓮實重彦の英断があったのか。社会から当てがわれた場所で、迷い煩悶する人々を見つめる生真面目な視線は、フランスの新社会派を代表するのに相応しい。 現在、4年ぶりとなる待望の新作『Vers le sud』がパリで公開中だ。熟年女性(シャーロット・ランプリング)がハイチの青年に惹かれるというプロットは意外に見えるが、しっかりとハイチ人の政治的不自由さを透けてみせているところに、社会派監督の面目躍如といったところだ。だが一貫して、出来合いのモラルを声高に語ったりしない姿勢に、映画人としての慎ましさもうかがえる。61年、ポワトゥ・シャロント地方出身。ドミニク・モルら国立高等映画学院イデック同窓生との精神的連帯も、頼もしい限り。(瑞) |
|
|
|