●Broken wings 事故で一家の柱を失った家族の物語。母親は、幼児と思春期の子供4人を抱え、激務で生活を支える。歌手を夢見る長女は、大切なライブ演奏前も母親に助けを求められ不機嫌。長男は得意なバスケットもやめ、授業もドロップアウト。次男は人気のないプールで、独りで高飛び込みをする姿をビデオにおさめる。末っ子は幼稚園の前で、今日も家族の迎えが遅くて寂しそう。珍しく戦火の影を逃れたイスラエル映画は、日常にぽっかりあいた死者の不在を丁寧になぞる。長女が詩に込めた言葉、プールに飛び込む次男の鬱屈したエネルギー、彼らの行動はそのまま喪の儀式だ。そして雨降りしきる晩、思いがけない出来事を機に、家族は再生の一歩を踏み出そうとする。(瑞)
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●Ma mere 今年のカンヌ映画祭のオフィシャル・セレクションからもれ、監督、出演、製作陣は映画祭側に抗議。確かにフランス代表として映画祭に出ても恥ずかしくない出来だ、と思う。 ジョルジュ・バタイユの『わが母』を出発点に、自らも作家でありこれが監督長編2作目のクリストフ・オノレが紡ぐ母と息子の物語は、妖しく切なく美しい。イザベル・ユッペールとルイ・ガレル(ベルトルッチの『ドリーマー』で注目を浴びた)のコンビは、「退廃的」、「不健康」などという言葉を越えた強い絆で結ばれる母子をみごとに演じる。意図的な粗い画質や南の島という状況設定が、時と空間の中に私たちを迷わせ、現実と非現実の狭間にある耽美的な世界へと誘う。(海) |
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●Kill Bill Vol.2 Vol.1のような派手なアクションシーンはうんと減ったし、おしゃべりに少しうんざり、という不満はあるけれど、ビルへの復讐へまっしぐらに突き進むウマ・サーマンの姿は、相変わらず華麗で美しい。今年のカンヌで、タランティーノは続編Vol.3を15年後に撮影することを発表している。それまで、彼は少年の心を持ち続けられるか? サーマンはシャープな美しさを保てるか? ご期待あれ!(海)
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●La vie est un miracle 恥ずかしげのない直球タイトルでさえ巨匠の余裕にうつる、クストリッツァ最新作。ボスニア戦争で息子が捕虜となってしまったルカは、敵側の女性を人質にするが、二人は恋に落ちてしまう。土地の歴史と混沌を抱え熱を帯びた風景、よく笑いよくわめく人々、表情豊かな家畜。ブラスバンド風音楽にのり、どこを切っても完璧なクストリッツァの世界が健在。中途半端なファンには、食傷気味の恐れあり。(瑞) |
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Tony Gatlif
カンヌ映画祭で、新作『Exil』が監督賞を受賞したトニー・ガトリフ監督。「この映画は私自身の傷跡を見つめたいという願いから生まれた。私の子供時代の土地、アルジェリアへ戻るために、43年の歳月、7000キロの距離、55000mのフィルムが必要だった」 1948年9月10日、アルジェ郊外に生まれる。結婚を強制されそうになって12歳で家族から離れ、靴磨きの仕事で自活。14歳で渡仏し、少年院や路上生活を経験する。18歳の時に憧れの怪優ミシェル・シモンの演劇を鑑賞、楽屋まで押しかける。「『映画に出たいが可能だろうか』と聞いたら、彼は長いこと僕の顔を見つめた後、『もちろん可能だ』と」。シモンは芝居のプロデューサーに推薦状も書いてくれた。その後、サンジェルマン・アン・レ演劇学校で学び、71年に初舞台。 75年ごろからは監督志願に変更。83年、パリ郊外に定住するロム族(ジプシー)を描いた『Les Princes』で監督として初めての成功をおさめる。また97年の『ガッジョ・ディーロ』は世界中で大ヒットし、彼の新たなターニングポイントになった。近作は『Vengo ベンゴ』(00年)、『Swing 僕のスウィング』(01年)。彼の大半の作品は、彼のルーツでもある流浪の民ロムと、全編を包み込む音楽が重要なテーマとなっている。(瑞) |
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