パリで迎える初めての冬、暗いうちから目覚まし時計に起こされることにも慣れた。パリにいるからには朝食は焼きたてのパンを食べたいと、家族を寝かせたまま、私はコートを羽織り、アパートの廊下の明かりをつけ階段を降りる。
一歩外に出ると、一日の活動はすでに始まっている。歩道を足早に仕事に向かう人たち。タバコ屋、新聞屋、カフェの店内ではすでにテキパキと準備万端が整っている。車内の明かりを皎々と灯し通勤客を運ぶバスが大通りを行き交う。校門の前には中学生の一群がグループをつくり、おしゃべりしながら扉が開くのを待っている。
慣れないうちは不思議な光景だ。夕方、とも思えるのだけど、何かがちがう。夜間に清められた若い空気、一日を始めようとしている清々しさのせいだろう。寒い朝、身を引き締めるのはよいことだ。ぐずぐずしていたら、またじきに暗くなり、一日が終わってしまう。眠たさも暗さもはねのけて、キリッといこう。元気な朝はそう思う。
しかし暗いパリの冬、いくら身を引き締めても、日照不足が起こす生理的現象から逃れられない朝もある。身体のエネルギー数値が下がったまま、そこに留まっているのが直感でわかる。地中の寝床で丸くなっている熊がうらやましい。
暖かいバゲットを抱え家に戻り、まだスヤスヤ眠る幼稚園児の娘を起こす。彼女だって暗いときに起きるなんて今までやったことがない。歯磨きを終え、洗面所から出てくると、まだ寝ぼけぎみの娘は「おやすみなさい」とベッドに戻って行ってしまいました。(M・K)