北野武監督の最新作『座頭市』、ヴェネチア映画祭での上映時、ラストはロックコンサートか? っていう盛り上がりだったそうだ。何しろ、これでもか! のエンターテイメントなのだから、このノリには監督も「我が意を得たり」だったろうな。『その男、凶暴につき』(88)を観た瞬間から監督・北野武の信奉者になった身に、最近の2、3作は正直いって辛いものがあった。スタイルに走り過ぎてこのまま先細りになっていくのではないかという密かな懸念…。が、『座頭市』をもってして「おー監督、こう来ましたか。参りました」とひと安心。娯楽作をかくも立派に撮れる技量に改めて脱帽だ。 座頭市といえば勝新、この日本人なら拭い去れないイメージを、金髪で短髪のビートたけし演じる座頭市が一新する。 映画のメインイベントである数々の殺陣を自分で考案指導したというのも驚きだ。さすが、浅草仕込みの芸人、たけしだ。一方、問題のギャグ。お笑い芸人、たけしだからこそ過剰になりがちだったギャグも今回は適量で、しっかり笑いを取る。そして相手役、つまり “市” の宿命の敵役、服部源之助という名の浪人(わけあって脱藩、病身の妻の薬代を稼ぐために相手かまわず用心棒をするというおきまりの役どころ)を演じる浅野忠信もすっかり風格のある役者になって見応え充分。別に本人同士に恨みがあるわけではないが、義務と人情と意地のために命を賭けて対決する”市”と服部、そのきっかけとなる親の仇を探す姉妹(実は姉弟)、そして悪党然としたヤクザ一味、と定石通りの物語がまたいと楽し。と、いいことずくめ。つまり理屈抜きに楽しめるエンターテイメントが見事に完成。この映画に理屈をつけて批判する批評家がいたら、そいつはバカかも…。(吉) |
フランスでは11月5日に封切られる。 |
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