今日、ひと・モノ・情報が絶えまなく世界を移動する事実は、空間と時間にたいする人間の知覚に大きな変化を及ぼしている。そのことに焦点をあてた展覧会が、ローランス・ボッセとハンス・ウルリッヒ・オブリストのキュレーションで企画された。 展覧会のタイトルは、イタリアの著述家クラウディオ・マグリスの著作「移動すること」から取られている。マグリスは本来、中央ヨーロッパの専門家であり、自身がヨーロッパ中を旅するなかで多くの著作をものする多文化的な視点を持っている。 当展には、若手6人の作家と二つのグループが参加しているが、一番気になったイタリア・ミラノのグループ〈ミュルティプリシティ〉の仕事「ロード・マップ」に触れておきたい。 そもそも〈ミュルティプリシティ〉は3年前に創設された土地調査事務所で、建築家、地理学者、美術家、都市計画家、社会学者、写真家、経済学者など80人が集まった集団で、すでに極めて横断的、学際的アプローチに取り組んできた。 今回、展示された作品は、まさにイスラエル/パレスチナ問題を扱ったもので、イスラエル人とパレスチナ人の旅行者がそれぞれ幹線道路沿いに車や足で移動する様をもろに正面からDVカメラで捕らえたもので、実物大くらいに拡大された映像が目の前に飛び込んでくる。そして観る者は、自分がイスラエル/パレスチナを実際に移動していると思えばいい。 それぞれは、イスラエル人旅行者だけが通れる幹線道路沿いの風景と、脇道の穴だらけで泥だらけの農道しか通行することが許されないパレスチナ人旅行者の情景だ。この両者の映像をよく見比べてゆくと、二人の旅行者の動きの差異が一目瞭然となる。パレスチナにおけるイスラエル軍の占領や度重なる検問、あちこちに障害物が置かれて、普通の通行がままならぬ抑圧状況や、都市構造から入植地まで、パレスチナ人の、時にはひどく揺れるカメラ映像と、舗装のいい高速道路を行くイスラエル人の安定したカメラ・アイを通して、差別構造が否応なく浮かび上がってくる。この二つの道行きのイメージの差異が、今日の世界状況における、かぎりなくポリティカルな問題をおのずと際立たさせているのである。 横の部屋にあるオノ・ヨーコの「女たちの部屋」もぜひ覗いてみたい。オリーヴの樹に平和を祈願するために。(kolin) |
*パリ市立近代美術館 : 9月28日迄(月休) |
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Jean-Michel Basquiat展
バスキアといえば、1980年に彗星のごとく現れて現代美術界で神話化されるほど騒がれ、1988年に麻薬のオーバードーズであっという間に世を去った、あの若い黒人画家である。 ハイチ人とプエルトリコ人の混血という典型的マイノリティーの黒人画家が、これほど世界的に名声を得た背景は何だったのか。画商界やメディアの戦略を度外視しても、バスキアが描いた多くの絵画は、N.Y.のグラフィティ文化、ドラッグやジャズと隣り合わせのカウンター・カルチャーから生まれたことは疑いない。やはり若くしてエイズで亡くなったK・ヘリングと仲良く、ウォーホルやクレメンテとつきあい、写真や映画にも登場している。 彼は1977年からニューヨークのタッガー(いたずら書きする人)のハシリだった。ヨーロッパに10年遅れてやって来て伝染病のように広がったストリート・アートの先駆者なのだ。バスキアは王冠とともにSAMO(ある古糞)とサインをするのが常だった。これらのグラフィティに、彼の抵抗と呪縛が封じ込められているというべきなのだろうか。 作家の亡き後、もう一度彼の判読可能/ 不可能なエクリチュールを再読すべきなのだろう。彼がグラフィティに込めた本当の意味を探して。(Kolin) |
*Fondation D.Vierny – Musee Maillol : |
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●Pierre MICHEL “Rue des Pochoirs” 街角に残されたグラフィティを通り名とともに撮影。写真展。8/31迄 Le Loir dans la Thelere (Salon de th” : 3 rue des Rosiers 4e ●”Fables de l’identite” Gisele FREUND「コクトー」(1939) 20年代以降の主要な写真家のポートレート写真を、”演出された対象”、”フィクション”、”ナルチシズム”、”内に宿る者”、”真実とオマージュ”と、5テーマに分けて約200点を展示。8/25迄 Centre national de la photographie : 11 rue Berryer 8e (12h-19h 火休) ●ファンシーなビジュー 《Trop》と題し、20~60年代のファンシーなビジュー・コレクションと、20世紀後半のモード(ゴルチエやラクロア他)アクセサリー。8/31日迄 (月休) 装飾美術館 : 107 rue de Rivoli 1er ●BRANCUSI (1876-1957) 前衛彫刻家ブランクーシ遺贈のデッサンや粗描、書簡等97点。極限の単純化による抽象彫刻を裏付ける作品。9/15迄 ポンピドゥ・センター広場脇会場 (火休) ●Arthur Bispo Di RosArio (1909?-89) 50年間を精神病院で送ったブラジル人作家のオブジェ79点と、パリのサン・タンヌ病院患者による絵画やデッサン約120点。9/28迄 (火12h-23h/水-日12h-19h) ジュ・ド・ポーム美術館 (月休) ●第38回《海洋》サロン 海洋・航海をテーマにした絵画・水彩・デッサン・版画他。9/29迄 Musee de la Marine: Place de la Trocadero 16e (火休) ●”Voyage autour de la Mediterranee” 18世紀から現代まで地中海周辺国モロッコやエジプト、チュニジア他を旅し魅せられた画家たち約30人の作品70点。 9/30迄 (日- 木14h-19h) Galerie Saphir : 69 rue du Temple 3e ●”Paris – Marseille” 1850年以降パリの画家たちが南仏に惹かれたのと同時に南仏の作家たちが上京。モンパルナス派とマルセイユ派75人の120点と写真他。10/12迄(12h30-19h月休) モンパルナス美術館: 21 av. du Maine 15e ●《サハラ砂漠》 サハラ砂漠の砂丘からオアシスへ、ベルベル系トゥアレグ族の遊牧生活や文化、自然環境などを発見。10/12迄 (火休) 国立自然誌博物館: Jardin des Plantes 5e ●”Alors, la Chine” 中国現代作家の造形から映画、ビデオ、インスタレーション、建築、音楽まで、都市化の中で変貌し続ける中国現代アートのパノラマ。10/13迄 ポンピドゥ・センター (火休) ●Lucien JONAS(1880-1947) リュシアン・ジョナスは肖像画家であると同時に、20~30年代パリの劇場などの壁面をアールデコ風壁画で飾った。素描画と原画約80点。10/26日迄 (月休) Musee de Carnavalet: 23 rue de Sevigne 3e |
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