ニース条約(2000年)によって2004年5月に実現が予定されているEU拡大計画が、10月20日、アイルランドが2回目の国民投票で63%の賛成票を得たことでいよいよ現実のものになった。中東欧10カ国、ポーランド、ハンガリー、チェコ、スロバキア、スロベニア、バルト3国 (エストニア、リトアニア、ラトビア)、キプロス、マルタが新加盟すると一挙に25カ国に、さらに2007年に予定されているルーマニアとブルガリアの新加盟で27カ国の大所帯になる。 で、トルコは? 52年にNATOに加盟し、87年にEU加盟候補を申請し、96年に関税同盟に加盟、99年ヘルシンキ首脳会議で正式にEU加盟候補国として認められているのだが…。トルコはEUに加盟するための条件の一つとして、この8月に死刑を廃止し、クルド民族など少数民族の言語を認めている。そして世論の7割はEUへの加盟に賛成しているという。 が、11月3日のトルコ総選挙でイスラム系政党の正義進歩党(AKP)が圧勝し、共和国建国(1923)以来初の単独政権が誕生。イスタンブール元市長エルドアンAKP党首は、98年に宗教感情を煽る演説をし実刑判決まで受けた人物だ。党首は、AKPはイスラム政党ではなく”保守政党”だと主張するが、政教分離を国是とする軍・司法当局は警戒色を強めている。トルコ政権の急変に、EU諸国は口には出さないが苦虫を噛みつぶしているよう。 この情況に慌てたのか、「拡大EU立憲議会」議長を務めるジスカール・デスタン元仏大統領は、11月7日の記者会見で「トルコは西洋国ではない。首都も国民の95%も欧州に含まれていない」、「トルコが加盟したら人口数(約6700万人)からしてEU主要国の一つになる…トルコを認めたらモロッコもと、EUは欧州ではなくなる。これ以上拡大すれば一種の自由貿易圏になり統合ではなくなる。…EUの終末を意味する」と辛辣な私見を表明。 12月12日に加盟候補国との最終交渉が開かれるコペンハーゲン首脳会議を控えてのこの”欧州規定論”が、「EUはキリスト教国のサークル?」と拡大賛否論争に火をつける。トルコがイスラム国であるがゆえにキリスト教国15カ国はトルコにだけ加盟条件のハードルを高くしてきたのではと疑る向きも。 一方、加盟候補国10カ国のほとんどが13年前まで共産圏だったのである。これらの国の国民総生産(GNP)は先進15カ国の4.4%でしかない。チェコやハンガリー、ポーランド人の平均所得はフランス人の5分の1だという。この格差を縮めるものとしたら、先進国へのこれらの国からの労働力(7年後に自由化)の流入であり、先進国企業の東方への進出だろう。 が、共通農業政策(CAP)の補助金に浴しているフランスやスペイン、ギリシャ、ポルトガル、アイルランドなど先進農業国に、共産主義崩壊からまだ立ち直っていない新加盟国の農業がどう対抗できるのだろう。これらの国の農業従事者への援助金も当初は、古参加盟国への援助額の25%と差をつけ継子扱いしているし。 拡大EUが、東方市場への進出にしのぎをけずる先進加盟国と後進加盟国の経済的主従「連合」になりはしないか。21世紀の欧州連合とは何なのかが問われるべきなのだろう。(君) |
2002年度EU年間予算 |