フランス映画界に新星誕生! フランソワ・オゾンを発見して以来の興奮だ。デルフィーヌ・グレーズ(28歳)は国立映画学校 FEMIS の出身で、すでに短編界ではスターだったという前歴は、オゾンと似ている。フランス映画のステレオタイプ、私小説的な世界から遠く離脱して、独自の映像世界を持っている。これもオゾンと同じ。これが惚れてしまう原因。しかし、二人の描く世界には、むろんのこと、何の共通点もない。 実を言うと、この映画『Carnages/殺戮』を6カ月前に観てから観直す機会がなかったので、ディテールを思い出せない。つまり一本の線上に連なる単純な話ではないのだ。場所や時間、多数の登場人物が入り組んで交響楽のように成り立っている。出だしは覚えている。フランス北部の町に住む少女が闘牛をテレビで見ている。間もなくキャメラはスペインの闘牛場にいる。闘牛士との戦いを終えた牛は屠殺場に運ばれる。そこで解体された牛の角や目や骨や肉の行方が、点在する登場人物たちを結ぶ唯一の接点となる。色んな人生、生活を背負って生きる人々が、牛の破片を手にしたことで数奇な目に合う。普段を逸脱する。幻想が日常に舞い降り、日常が幻想に呑み込まれる。そんな不思議体験が彼らを変える。はっきり周囲と自分の関係が見えてくるような…。ちょっと変だけど何か魅力がある登場人物たち(キアラ・マストロヤンニ、アンジェラ・モリノ、リオ、ジャック・ガンブランといった有名どころから無名の俳優まで、皆、ななかなかの味を出している)と、予想不可能な物語展開に2時間10分がアッという間だ。終わってしまうのが惜しい。もっとこの風変わりな世界に浸っていたいと思う。ダイナミックな監督の出現に立ち合おう! (吉) |
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●Le Fils ダルデンヌ兄弟の作品から受ける感動は、ロベール・ブレッソンの諸作品から受ける感動に近い、と思った。『ロゼッタ』は『少女ムシェット』の今の姿だし、主人公が指導員として働く青少年復帰センターに、彼の息子を殺した少年がやってくるという新作のテーマもブレッソン風。 主人公に密着して揺れ動くダルデンヌ兄弟の手持ちカメラ、その観客を巻き添えにする執拗さに抵抗したくなったように、文学的で時代離れしたブレッソンのセリフにも違和感を持った。ところが、その抵抗感/違和感をふっ切ると、苦しんでいる人間たちの姿が見えてくる。 おがくずのついた厚いセーター、材木の木目、森の湿った落ち葉、といった物の鮮明な質感が、「ボクらはみんな孤児」という感をさらに強くするあたりもブレッソンに負けていない。(真) |
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