● Jalla! Jalla!
スウェーデンに住むレバノン人一家の長男と、レバノン人実業家の妹の婚礼準備が、本人たちの無関心をよそに勝手に進められる。長男にはスウェーデン人の恋人がいて、実業家の妹は長男の親友を愛している。とうとう婚礼の日になる…。
監督ジョゼフ・ファレスは、長男と同じように、幼い時にスウェーデンへ移住した。同じ国の出身者だけで社会を作ることに肯定的な父親の世代を、拒絶するのではなく受け入れながら自分だけの視点を確立していく、モダンでスマートな感覚の持ち主だ。この作品の主題は、もちろん当事者たちが望まない「結婚」と、スウェーデンとレバノンというまったく違った二文化の対比なのだが、伏線として描かれる長男とスウェーデン人青年との間の友情が作品に膨らみを持たせ、ユーモア溢れる佳作に仕上がっている。(海)
●L’apres-midi d’un tortionnaire
コミュニスト時代の監獄で拷問を行っていた男が、壊れそうなテープレコーダーの前で、過去の生い立ちと罪を、狂気をちらつかせつつ不器用に告白していく。その様子をジェーン・バーキン似の美少年が微笑みを浮かべながら眺めていて、同時に庭の一本の木を舞台に空想の役者たちが集い、彼の過去が寸劇で上演される。美少年がかつての彼なのだと我々が気付いた時には、すでに少年の顔に微笑みは消えている。
罪を告白する男をドキュメンタリータッチで執拗に捉えながらも、空想の寸劇の登場が、息の詰まるような設定を詩的な世界へと誘う。映画と演劇の特性のいいとこ取りをし成功したような作品だ。本国ルーマニアを追われ、20年近くもフランス、イギリス、アメリカで作品を発表していたという気骨の人、リュシアン・パンティリ監督3年ぶりの新作。(瑞)
●La Repentie
レティシア・マッソンの久しぶりの新作。イザベル・アジャーニ久々の映画主演作ということで、注目を浴びた一作。
刑務所を出所したばかりのヒロインが、ニース一番の高級ホテルで、億万長者でやもめの中年男(渋くて美しいサミ・フレー)に出会い、恋におちる。
キベルランが主演してきた一連の作品を見れば一目瞭然だが、マッソンは「逃げる女」を常に描いてきた。過去から逃げようとするヒロインは、アジャーニそのものだ。神経質で情緒不安定、もろいようだけれど意外にたくましく、計算高そうな女。自分を見失った主人公の「自分探し」がアジャーニ自身の「自分探し」に重なる。この作品がアジャーニのプロモーションビデオとして人々の目に映っても、少しも不思議じゃない。(海)
第55回カンヌ映画祭
5月15日から26日まで開催の第55回カンヌ映画祭。審査委員長はD・リンチ。オープニングはW・アレンの『Hollywood Ending』。L・ディカプリオ主演で話題のM・スコセッシ待望の新作『Gangs of New York』は20分のダイジェスト版上映。コンペ部門には15カ国21本が選出。中でもフランス映画が4本と一番多く、過激なG・ノエの『Irreversible』に期待が高い。イギリス勢も3本と威勢はいいが、M・リ−、K・ローチ、M・ウィンターボトムと新鮮味のない顔ぶれ。他にはP-T・アンダーソン、A・カウリスマキ、A・キアロスタミなど。昨年3本がコンペに選ばれた邦画だが今年はゼロ! 特別上映で吉田喜重の『鏡の女たち』が紹介されるのが救い。海上にスクリーンを設置し、オマージュ上映(今年はJ・タチとB・ワイルダ−)をする「砂の映画館」など初の試みにも注目だ。(瑞)