ナオさんこと平出直哉さんは、16歳の時電気オルガンの名器ハモンドに出会う。軋んでかすれる鍵盤の雑音が、魂を持った、深みのあるナチュラルな旋律となって現れる。「これは生き物だ」。それまで知っていたエレクトーンやオルガンの人工的な音とは全く違っていた。
18歳。大学入学に魅力を感じなかったナオ青年は、親を説得し渡仏。最初はNYが良かったのだが、ドル高のため断念。ならば慣れ親しんでいたフレンチポップスの国でもいいかということになった。ところが来てみると…「まるでデジャ・ヴュ。昔自分はここに住んでいたかも」と疑った。言葉もわからないのに異国という気がせず、妙にしっくりきた。
その後はサンジェルマン・デプレを中心に、レストランやバーなどでオルガニスト、ピアニストとして活躍。同時にコンサートも数多く行う。ロック、民謡、シャンソンなど、ジャズ以外の曲をジャズ風にアレンジして演奏するのが得意。教会の巨大パイプオルガンに挑戦し、いつもの癖でジャズ演奏を始め、司祭さんを驚かしたことも。アーティストとしての即興への欲求は、俳人や琵琶奏者の家族から引き継いだものかもしれない。気がつくと20年以上も日本に帰国することもなく “パリのシーラカンス” (本人談) になっていた。
昨年末には、パリの日本大使館でのソロコンサート「MY FAVORITE THINGS」が大盛況。ダイナミックで暖かみもあるナオさんのジャズに、よそ行き顔の大使館の空気がくつろいだ。今もナオさんは様々なコンサートを構想中。おいしいワインを用意しての野外ライブ、入場料はお客さんが自由に決めるコンサートと、アイデアは尽きない。
「この音を聞いたら“ナオの音”とわかってもらえる音作りを目指したい」
ナオさんのハモンド人生第二楽章は、パリで奏でられるだろう。(瑞)