コメディー俳優&監督として国民的人気を誇るジェラール・ジュニョの最新作。ブルターニュで床屋を営むイヴォン(ジュニョ本人)。愛娘レティシアが映画のヒロインのオーディションに合格してしまったから、さあ大変!タイトルの”Meilleur Espoir feminin” そのままに、女優街道を突き進んでしまうのだ。
ハリネズミを、落としたカツラと勘違いして拾ったり、髪を固めるスプレーで腋の下をシューしたり、得意のギャグは、オヤジギャグの域を越えない。また女優がプロデューサーとデキてしまう汚い業界像や、親子愛を確認させられるラストやらは“いかにも”の直球ストライク。
さて同じく俳優&監督として彼と比較されることの多いのがフランスの竹中直人ことミシェル・ブラン。彼の監督作『他人のそら似』(傑作!)なんかは日本でも配給されていたが、野心的でオリジナルな作品だったからこそだ。
ジュニョの場合、代表作『Une epoque formidable』にしても、「この映画が果たしてオリジナルか? 映画的に新しいか?」と問われれば、首を傾げてしまうものなのだ。いや私は別にジュニョ批判をしようというのではない。あなたがこの映画を観に映画館に足を運んだなら、必ずや高らかに響き渡るフランスマダムによるオッホーホー笑いに巻き込まれることだろう。彼女たちは初めから “ジュニョのコメディ” で笑うために映画館にやって来る。それは「寅さん」の渥美清のごとく、客に予定調和のほどよい満足感・安心感を与える、ジュニョ的引力のなせる技なのかもしれない。ジュニョはジュニョ。永遠に愚直な中流階級のオジさん。それでいいのだ。何もカンヌやベルリン映画祭の出品を狙う映画だけが、人を幸せにするわけじゃないのだから。(瑞)