Roti de porc
フランスの養豚業者たちは、豚肉の売値がキロ6フランを割って困っているが、小売値がそれほど安くならないのはなぜだろう。とはいうものの、豚肉はまだまだ安い。今回は、天火さえあれば豚肉料理の中でもいちばん簡単なローストポークを作ってみたい。前回作ったホウレン草のクリーム煮などを添えれば、ちょっとしたご馳走です。
豚肉屋で、roti de porcと呼ばれる、すでに糸で結わえられて筒状になっているものを売っている。脂身の少なめなロースcote の部分、脂身が混じった肩ロースechineの部分などと数種類用意してあるのがふつうだから、自分の好みを肉屋さんに伝え、1キロの長さに切ってもらう。40フラン前後の買い物だ。
味がよく馴染むように豚肉の塊に塩、コショウをこすりつけ、1時間ほど室温に置いておく。天火の目盛りを8(250度)に合わせ点火。すっかり熱くなったら肉の塊を入れる。僕は天火皿の上にグリルを置き、その上に肉をのせて浮くようにする(イラスト参照)。天火皿には水を5ミリほどの深さに入れておく。これは、肉から出る脂が焦げるのを防止する役割もあるし、肉が柔らかく焼き上がるからだ。30分もたつと、肉の表面に軽く焼き色がつくから、天火の目盛りを6(200度)に落とす。肉を取り出す。天火皿の上でジュージューいっている脂を刷毛でまんべんなく肉に塗る。天火皿に先ほどのように水を入れてから、天火に戻す。もう30分たったら同じ作業を繰り返し、あともう30分。豚肉のローストは500グラム45分というのが目安だから、トータルで1時間半の調理時間です。
まな板にのせて、熱々を食卓で薄めに切り分けたい。天火皿に残っている肉の旨みを熱湯で溶き、ソースとして添えましょう。付け合わせとしてはグラタン・ドーフィノワも素晴らしい。ワインは、フルーティーなボージョレやロワール地方の赤がおすすめ。(実)
ワインの肴
ローストポークは少なくとも1キロは焼きたい。少人数で余っても、いろいろと転用できる。できるだけ薄く切って、ピクルスを添えれば手軽なオツマミ。インド食料品店で売っているライムチャツネなどを添えるのも面白い。やはり薄切りにしたものをビネグレットソースで和え、輪切りの玉ネギやらパセリのみじん切りを散らせば、さっぱりとおいしく、軽い赤ワインだけでなく辛口の白にも合う。ちょっと和風にしてフランス人の友人をビックリさせたいのなら、せん切りにしたショウガをのせ、辛子醤油を添える。
食パンに、バターとマスタード(できたらマークス&スペンサーなどで英国風の酢が入っていない極辛のものを買って使いたい)をたっぷりと塗り、レタス、キュウリ、ピクルスの輪切りなどをのせ、薄く切ったローストポークを挟む。うまい。このサンドイッチには、ビールがいちばん。
●台所のフランス語|rotir
rotirは、牛、子牛、豚、子羊などの肉の塊、あるいはウサギ、トリ、魚などを丸ごとローストすること。以前だったら、暖炉の火の上でロースターを回しながらという風景もあったが、現在では、熱がまんべんなく行きわたる天火でローストするのが一般的。
肉・魚によってはあらかじめマリネして下味を付けるのもいい。脂肪の少ない牛肉やトリだったら、barder=ベーコンや豚の脂身を巻いて脂肪分を補給する。魚にはオリーブ油を塗った方がいい。最初に、塊ごと炒めたり、あるいは強火の天火に入れるのは、表面のたんぱく質を凝固させるためだ。これはsaisirといい、固くなった表面croteのおかげで、調理中に旨みsucが逃げません。中がレアに近い状態が好きな人は、終始強火で短時間の勝負。豚肉のように芯までしっかりと焼きたいときは火を中火に落として焼き上げる。
天火皿にしたたり落ちた肉の旨みを捨ててはいけません。余分な脂を捨てたら、天火皿を直接ガスの弱火にかけてきれいな色を付け、水、ワイン、ブイヨン、トマトピュレ、砂糖などを足して、木のヘラを使って旨みを溶け込ませ、塩、コショウで味を調え、おいしいソースに変貌させましょう。
● ハーブ・スパイス探検|Laurier
地中海沿岸に生える月桂樹は、古代ギリシアではアポロ神の霊木。スポーツ、詩、彫刻などの競技の勝利者に、月桂冠が与えられたことはあまりにも有名。その葉のかすかな苦みを持った風味は、ブーケ・ガルニに欠かせず、クール・ブイヨン、テリーヌ、ブランケット、牛肉の赤ワイン煮などの味を引き立てる。入れすぎは禁物で1、2葉で十分。ポルトガルで食べたタコのサラダには、まだ緑がみずみずしいローリエの葉が小さく刻まれて入っていて、とてもおいしかった。