最新映画情報 N° 434 1999-04-01 ●Vivre au paradis 「フランスにきたら贅沢させてやるって言ったじゃない…」 家族を受け入れるために夫が入念に準備した掘っ建て小屋へ足を踏み入れた瞬間に妻は夫を責める。 フランスが天国だと信じてやってきた移民たちにとっての現実は厳しい。 時は1960年のはじめ、パリのすぐ外側にありbidonvillesと呼ばれる移民住居地へ祖国アルジェリアから家族を呼び寄せた一家の長を主人公に、当時の移民たちの生活や彼らをとりまくアルジェリア独立までの社会背景を描き出す。 監督ブーレム・ゲルジューも、主役ラクダーを演じるロシュディー・ゼムも、マグレブ系移民を両親に持つ。フィクションなのに嘘くささがないのはそのおかげだろう。 仲間や故国を忘れ、守銭奴と化す主人公に見せる妻の凛とした態度や、主人公の親友が「お前もフランス人と同じだ」と投げつける言葉に、独立のために闘った移民たちの誇りが象徴されている。(海) ●洞 The Hole 台湾の有望株、ツァイ・ミン=リアンの新作だ。2000年まであと数日の台北。ゴキブリのように四つん這いになって光の当たらないところに身を隠し、最後には発狂するという「台湾ウイルス」が蔓延している。外はノアの洪水を思わせる連日の豪雨。団地内ではどこからともなく水が漏れ、壁紙がはがれ、床は水浸し。階上の男の所に配管工がやってきて、床に穴を開けていく。その穴から、ゴキブリが顔を出し、ゲロが噴き出し、足がブラブラと揺れたりするから、階下の女はたまらない。こんな終末的映像に、カリプソやチャチャの派手なミュージカルシーンが挟まる自由さが圧倒的だ。ラストで、雨が止み、穴から差し伸べられる手が美しい。(真) ●Fin d’ete ジャーナリスト志望のイギリス人ダイアナとコンピューター技師エドワールは、フランス南西部の山奥でヒッピーのように暮らす友人一家を訪れる。 都会育ちのダイアナは、家畜と寝食を共にし裸同然で生きる一家の生活にショックを受け、山を下りる。 「バカンスで空っぽのパリを脱出して田舎へ行こう!」と呼びかけるとぼけたナレーションと、バカンスのスナップ写真のような映像が流れるはじめの約5分間は、学生が撮影した地方観光局の宣伝映画かと疑いたくなるほど垢抜けない。主役の男女も美しいとは言えないし、他の登場人物も素人みたいだし…こう書き連ねると何とも冴えない作品…ところがとんでもない! この作品には現代の喧騒を忘れさせてくれる自由と自然な人間の姿があり、それが嫌みなく表現されている。 話が尻つぼみに終わるのが残念だけど、彗星のように現れたラリュー兄弟の今後に期待したい。(海) Share on : Recommandé:おすすめ記事 【第18回キノタヨ現代日本映画祭】映画を介した日仏の文化的対話へ。名優・役所広司の特集上映も。 【シネマ】ショーン・ベイカー『Anora』公開。『プリティ・ウーマン』への30年後の返答。 【Cinéma】根源的な映画の喜び、オディアールの新たな代表作『Emilia Perez』。 【シネマ】70年代日本のウーマンリブを語る『30年のシスターフッド』。上映とトークの会(無料) 話題の政治劇 『クレムリンの魔術師』ベストセラーが舞台に! 【シネマ】円熟の秋のミステリードラマ 『 Quand vient l’automne 』