長くけだるいフランスの夏。猫も杓子も大自然バカンスに出発するなか、パリに居残りを決めた孤高の文化系人間にうってつけの作品がある。ポルトガル人ミゲル・ゴメス監督の『LesMille et Une Nuits』三部作だ。
「Volume1, L’Inquiet」「Volume2, LeDésolé」「Volume3, L’Enchanté」と題された各2時間の映画が、6月24日、7月29日、8月26日と順次公開される。
どこから開いても楽しめる、不均衡で美しくも唖然とさせられる寓話集だ。冒頭では、不況に見舞われた祖国についての映画を撮影中の映画監督(ゴメス自身)が登場する。だが不安と疑念に苛まれた彼は、早くも撮影現場を放棄し、逃走を図る。この展開に観客はまず唖然。だが間もなくスタッフに捕まった彼は、「千夜一夜物語」の王妃シェヘラザードに、語り部のバトンを託する。ここで観客は再び唖然とするが、あまりに自由なゴメス節への耐性もできてくる。
バグダッドの王を退屈させぬようシェヘラザードが語り出すのは、主に2013年から2014年にかけてポルトガルで起きた三面記事的な出来事だ。夜に啼く鶏は隣人に訴えられ、少年は愛のもつれから森に火をつけ、男たちは懸命に鳥に歌を教える。土着的だがユニヴァーサルなエピソードが数珠つなぎに現れ、時空を超えては、同じ役者が別の人物として蘇る。もはや夢もうつつも、終わりも始まりもない。やがて心地よくなる映画の耐久レースは、絶滅種たるシネフィルの夏を静かに慰めてくれるだろう。カンヌ映画祭監督週間に登場し話題を呼んだ本作は、巨匠マノエル・ド・オリヴェイラに捧げられている。(瑞)