2008年、自動車事故で昏睡状態、植物人間となりランスの病院に入院中の元看護士ヴァンサン・ランベール氏(38)の延命治療を続けるかどうかで、医師団と家族同士が6年以来対立し続ける。植物人間の息子が息をし続けるかぎり生きていて欲しいと願う両親と妹・義弟。一方、妻と弟妹、3人の義弟、甥(おい)は、本人が生前中に言った「誰かに依存する生活はいやだ」の言葉を信じ、一時も早く苦しみをなくしてあげたいと願う。
6 月24日、コンセイユ・デタ(国務院)は患者の人工的水分・栄養補給の停止を最終的に認めた。その直前に母親ヴィヴィアンヌさんが提訴した欧州人権裁判所は、判定が下るまで「延命治療を続けるべし」と発表し、ランベール問題は続く。
2012年末、カリジェ主治医は延命治療の停止を考慮し、2013年4 月に実施した。両親はその措置に怒り行政裁判所に訴え、延命治療の再開を命じる判決が下る。2回にわたる家族と医師団・治療関係者の協議後、2014 年1月11日、主治医は再び延命治療を停止した。ところが16日、同裁判所は「人工的水分、栄養補給は執拗(しつよう)な延命治療ではない」とし協議結果を無効にした。妻と甥が提訴した国務院は新たな治療証明書を要求し、医師会、倫理委員会、医学アカデミーに諮問し、上記国務院の判決に至る。
ランベール問題と時を同じくして大きな話題となったのは、バイヨンヌ総合病院のボンヌメゾン元救急医が2010年から11年にかけて末期の苦しみを和らげる対症療法を受けていた7人の高齢患者に鎮痛用の強い催眠剤Hypnovelを注射した。6月24日、重罪裁判所の検事は、同僚や看護婦にも知らせず独断で「患者たちが死を希望していないのに死に至らせた」とし執行猶予付懲役5年を求刑。25日、50人余の識者や著名医・病院関係者の証言後、市民からなる陪審員全員が「被告に殺意はなかった」とし無罪を宣告した。この日、重罪裁判所前で数十人の病院関係者や市民が彼を拍手で迎えた。ところが7月3日、検察側はこの無罪判決に対し上告した。4月15日に内定した被告の医師会からの除名処分が7月1日から実効。
2005年発布のレオネッティ法は「常軌を逸する執拗な延命治療は、意思表示不可能な患者に対しても禁じる。薬剤などで命を短縮させる措置は患者と近親者に予告すべし」としている。植物人間状態にある患者は全国に約1700人おり、彼らに対し延命治療か安楽死の道を選ぶかは医師と家族の判断に依存する。治療し回復させることを本命とする医師が、法文化されていない尊厳死や安楽死を実行するのはまれだ。ランベール問題でレオネッティ法の明確化が叫ばれている所以だ。
ランベール延命問題にしろ、ボンヌメゾン医師の絶望的な単独行動にしろ、尊厳死、安楽死という問題が議会やメディアで真剣に論じられないのは、カトリック教条派や保守派層の圧力が強いからなのだろう。末期患者や家族の中には、積極的安楽死を認めているスイスやオランダの病院に行く人もいる。1992年イタリアで娘の延命治療の停止を希望した父親を、バチカンは「残忍な殺人行為、非人間的」と宣言したが、イタリア最高裁は父親の願いを認めたという。(君)