1980年代に「亭主元気で留守がいい」というCMのキャッチフレーズがあったが、19世紀末では夫の留守を妻たちが楽しむわけにはいかない。狩りへ繁く足を運ぶ夫を手伝い、「旦那様は狩りにお出かけ」(この戯曲の邦題)だと信じて帰りを待つというのが、この時代の貞淑な妻の典型だった。しかし、一度夫の言動に不審な点をみつけると、妻だって我慢ばかりはしていられない。
時代の風俗を反映するブールヴァール劇の中でも最も有名な戯曲のひとつで、作家はジョルジュ・フェドー。ブルジョワ家庭の妻レオンチンヌに横恋慕をしようとする夫の友人がいる。夫のおいは、年老いた男性から庇護(ひご)を受ける若い女性のアパートに出入りしている。レオンチンヌの夫は、狩り仲間だとアリバイに使っている友人の妻と実は浮気をしている。そしてついに夫のうそに気づいたレオンチンヌが報復を決意し、夫の友人と一緒に入った建物で、登場人物すべてが出会ったりすれ違ったり、ハチャメチャなシチュエーションに。男女平等が成立していなかったこの時代、夫の浮気よりも妻が浮気をすることが罪とされていた。フェドーは皆が会する建物の管理人を、浮気が発覚して離縁された元侯爵夫人という設定にしている。侯爵夫人の座を奪われた管理人の台詞の端々に当時の風潮と道徳がうかがえ、しかも浮気をすることに後ろめたさをおぼえるレオンチンヌへのある種の脅迫と教訓を与えるという効果ももっている。
元のさやにおさまる、という結末が少し残念だが、久しぶりにフェドー劇で笑って、軽い劇もたまにはよいものだ、と思う。演出はジャン=ポール・トリブー(出演も)。7月6日迄。(海)
Théâtre 14-Jean-Marie Serreau :
20 av Marc Sangnier 14e 01.4545.4977
火金土20h30、水木19h、土16h。
11€-25€。