
コロナ禍以来、フランスではすっかり定着した感のあるテレワークだが、昨年あたりから企業がその日数を制限する動きがあるようだ。会社に行かなくても働けることに慣れた社員からは抗議の声も上がっている。
最近話題になったのは、仏大手銀行ソシエテ・ジェネラルの経営陣が7月4日、2021年1月に決められた同行のテレワーク規則を非難したことで、労組が反発を強めているとメディアで報じられたことだ。現在行員の7割が少なくとも週2日のテレワークを行なっているが、経営陣は、それを週1日にするよう6月半ばに全行員にメールを送付。労組はすぐに反発し、3日にはオフィスのスペースが足りないことをアピールするために「全員出社」の抗議運動を行なった。
仏紙によると、テレワークを制限する動きは昨年頃から活発になったらしい。米国では昨年秋にアマゾンのアンディ・ジャシー社長が「チームワークの文化を強化するため」エンジニアや管理部門の社員らに週5日オフィスに来るべきと発言。フランスでも自動車のステランティスやルノー、ゲームソフトのユービーアイソフト、アマゾン、グーグル、アップル、ツイッターなどがテレワーク日数を制限する措置を打ち出した。今や仏企業の82%が出社を促す方策をとっているという。最もテレワークに向いていそうなIT企業が出社回帰を促しているのも皮肉な話だが、テレワークが社員全体の労働にマイナスの影響を及ぼすという考えが経営側や人事部に広がっているとみる専門家の意見が紹介されている。
国立統計経済研究所(INSEE)によると、フランスでは2024年上半期で民間企業の社員の22%が少なくとも月に1度はテレワークしており、仏企業の47%がテレワークを採用している。2022年時点で、企業内合意の55%が週2日までの、28%は1日のテレワークを規定。テレワークを実施しているのはITとコミュニケーション(75%)、金融(60%)などの部門が多く、管理職が33%と多く、中間職では20%、平社員は10%と減っていく。
また、別の調査によると、従業員が50~99人の企業では従業員の38%が、500人以上の大企業では62%がテレワークを実施している。テレワークしている人は平均で週1.9日(2021年は3.6日だった)。世論調査会社 Opinionway の調査によると、63%のフランス人が働く場所や出社の頻度に何の制限もない雇用を希望しているという。つまり、テレワークを既得権とみなす人が多く、テレワークしている人の50%は毎日の出社が強制されれば転職することもいとわないという。
テレワークは、主にコロナ禍のロックダウンをきっかけに定着し、田園地帯や、オフィスから遠くても広い住宅に住めるなどのメリットが注目され、通勤・勤務時間の強制から解放されることで、仕事とプライベートのバランスが取りやすいと歓迎された(他方で、仕事と私生活の境界があいまいになって精神的な問題の原因にもなるが…)。オフィスのスペースやデスクなどの設備のコスト削減もプラス面として注目された。会社選びの条件になるほど定着し、今では労働条件の一つと見なされているのかもしれない。(し)
