〈1〉五月のバラ香るグラースへ。

一月からミモザ、次にすみれ、オレンジの花とつづく。4月はアヤメ、5月はバラ…。南フランスの温暖な気候、豊かな水と肥沃な土地に恵まれたグラースでは、一年を通して折々の花が咲く。それらの花を加工して香水や香料を作る会社は70社ほどあり、およそ5千人が働く。関連分野の企業を含めると雇用は1万人という、この地方の一大産業だ。
16世紀、カトリーヌ・ド・メディシスがイタリアからもたらした香りのついた革手袋はフランスの宮廷で大流行し、12世紀から皮なめしが盛んだったグラースでも同様のものが作られるようになった。1614年には〈革手袋と香水の同業者組合〉が設けられたが、のちに組合の皮革と香水部門が分離してから、グラースでは香水文化が大きく花開いた。
世界のいたるところで香水が作られていても、原料の植物栽培から、加工や調香の知識と技能、製造まで、全工程がひとつの町に集まっている例は稀で、2018年、グラースの香水製造のノウハウは、ユネスコの無形文化遺産に登録された。
グラースの花畑で香水の原料となる 「5月のバラ」が咲く季節がやってきた。山の、南向きの斜面に築かれた古都グラースではバラ祭が開催され、旧市街の広場や小路が、バラの香りであふれるころだ。(集)
取材協力 Nous remercions:
◉グラース観光局 Pays de Grasse Tourisme
www.paysdegrassetourisme.fr
◉コート・ダジュール観光局 Côte d’Azur France
https://cotedazurfrance.fr
◉パリからの行き方
パリからカンヌCannesまで直行なら5時間20分ほど。同駅からローカル線でグラースGrasseまで30分(終点)。丘の上にある中心街へは駅前からバス5番線に乗り、Grasse Centre-Ville下車 (所要時間13分ほど)。

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あわせてお読み下さい。
【特集】香水の都・グラースへ。〈2〉国際香水博物館で 、香り9千年の歴史にふれる。
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グラースで、香りの新体験。
自分だけの香りをつくる、調香体験。

調香師になりたいという若い男性がイタリアから来て参加していた。
香りのエッセンスの瓶がひな壇に120本ほど並ぶ。 「調香師のオルガン」と呼ばれるものだ。その前に座ると、白衣を着たアトリエ指導のマダムが「瓶のラベルに書かれた香りの名で好き嫌いを判断せず、すべての香りを嗅ぎましょう。”感覚の声”を聞くことが大切です」とアドバイスをくれる。
エッセンスは揮発性の高い順に、上の段から、速く蒸発するトップノート(note de tête)、その下にミドルノート(note de coeur)、最も長く香りが残るベースノート (note de fond)と、3つに分類されている(この分類は 「香りのピラミッド」と呼ばれ、調香の基本原理となっている)。一番下のベースノートから嗅ぎ初め、各段から好きな香りを5つ選ぶ。深く香りを吸い込まずに、ボトルを鼻の前で軽く振って嗅ぐようにすれば異なる多くの香りを感じられるという。それでも嗅覚が鈍ったら外の空気を吸って鼻を休ませ、再開する。

最終的にはマダムが、参加者が選んだ香りのリストを見て各エッセンスの分量を決めてくれるので、それに従い自分で配合する。最後に、自分の香りの名を決める。すると帰る時に、その名のラベルが貼られた自分のオー・ド・パルファンの瓶(100ml) をもらえるのだ(感動)。配合記録は保管されるので、同じものを後から再注文できる。
我が香水 「Grâce de Grasse N°1 」を、指示通りに3週間寝かせてから嗅いでみると、優雅さに欠け名前負けではあるが、愛着は感じた。嗅覚を鍛えるには、香りを記憶とつなげて認識し(田舎の家の納屋の匂い、など)、それを蓄積するといいという。これほど嗅覚を意識して、集中したことはなかったので、いい体験になった。


★Galimard ガリマール社の調香アトリエ
Atelier de création de Parfum
1時間45分間。62€。15歳未満52€、同伴者10€。毎日10h、14h、16h。
仏英伊対応。サイト予約。
www.galimard.com
★ Molinard モリナール社の調香アトリエ
Création de Parfum sur-mesure
1時間。89€、50ml。丸テーブルの中央に置かれた90種のエッセンスを他の参加者とシェアする。子ども調香は30分。18種の香りで30ml 、32€。同伴者はひとりのみ。 4〜8歳。サイト予約。
https://molinard.com


見学や体験ができる グラース3大香水ブランド
グラースの町には、香水の作り方をみせてくれるミュージアムや、調香アトリエ、ショッピングもたのしめる大きな香水会社が3軒あるので、ぜひ行ってみよう。
◉ Galimard ガリマール

〈革手袋と香水の同業者組合〉のメンバーで、ルイ15世の宮廷に香りつき手袋、香水などを納品していたジャン・ド・ガリマールが1747年に創業。2023年からは静岡県出身の増田湧介さんが調香師を務める。グラースで日仏香りの文化融合が興るかもしれない。グラースの別の場所にある工場とミュージアム見学も可能。

Studio des Fragrances Galimard :
5 route de Pégomas 06130 Grasse
Tél : 04.9309.2000
www.galimard.com
◉ Molinard モリナール

紫が基調の商品デザインが美しいモリナール社は1849年創業。1921年発売のHabanita (アバニタ)はそれまで男性用とされていたベチバーを女性用香水に配合した革新的な香水だ。ギュスターヴ・エッフェルが設計したかつての蒸留室では、伝統的香料の製法と自社の歴史を紹介。香水博物館の見学ツアーは10h-12hと14h-17hの時間帯、20分毎 (仏英西伊独語)。
博物館とブティック4〜9月: 毎日 10h-18h (7・8月:-19h)。
10〜3月は月〜土 10h-18h。
学校休暇中は日曜も開館、10h-18h。
駐車場無料。犬入場可。
La Bastide, Visite et Musée
60 bd Victor Hugo 06130 Grasse
Tél : 04.9336.0162 https://molinard.com


◉ Fragonard フラゴナール

グラースの香りつき手袋の製造業の家に生まれた画家ジャン=オノレ・フラゴナール。彼の名をとってウジェーヌ・フックスが1926年に設立した香水会社がフラゴナール社。香水博物館、歴史的工場見学、画家フラゴナールの美術館、プロヴァンス伝統衣装とアクセサリー博物館、ブティックも含め、グラースに来た人たちが楽しめるよう、多くの活動を提供してくれる。今年はアルルにもミュージアム開館予定。
https://usines-parfum.fragonard.com



