
photo:Amelie Bataille. courtesy of the artist and- Irene Laub gallery
フランスでは毎春、文化省の後援で、人々が詩に親しみ、詩作に励むことを応援するイベント「詩人たちの春 Printemps des poètes」が開催される。それを手本にしたのが、この「デッサンの春」だ。2007年にパリで2人のコレクターが始めた「現代デッサンフェア(現・ドローイング・ナウ アートフェア)」が、デッサンフェアにとどまらず、現代美術センターなどに範囲を広げてフランス全土で繰り広げるイベントに発展させた。
第8回目の今年は3月20日から6月21日までで、86団体が参加する。そのうち43は初参加で、歴史的重要文化財に指定された建造物24ヵ所も含まれている。
目的は、主に展覧会とワークショップを通して、できるだけ多くの人々に紙を支持体にしたアートに親しんでもらうことだ。創始者の1人クリスチーヌ・ファルさんは、「なぜデッサンなのか」という問いに、「(他の技法に比べて)デッサンはより身近に感じられる。紙と鉛筆さえあればデッサンできるという手軽さや安価なところも魅力」とこのイベント発表記者会見で語った。紙を支持体にした鉛筆や木炭、インクによるデッサン、水彩、版画、コラージュなどの技法が含まれる。
ウェブサイトには地方別に参加団体が出ている。ワークショップだけの場所もあれば、展覧会だけの場所、両方を提供する場所もある。22ヵ所が参加するイル・ド・フランスは最大規模。
Printemps du dessin 公式サイト www.printempsdudessin.com
ワークショップ
参加費にあまりお金をかけず体験したいなら、このふたつがおすすめ。
建築・遺産博物館 Cité de l’architecture et du patrimoine

トロカデロのシャイヨー宮にある建築・遺産博物館では、デッサン教師の建築家が手ほどきする2時間半の建築デッサンのワークショップ。博物館内、屋外、ウェブ授業のどれかを選ぶ。パースペクティブを学べる良い機会だ。30ユーロ。博物館の公式サイトのAGENDAページから要予約。
1 place du Trocadéro et du 11 novembre 16e
www.printempsdudessin.com/cite-architecture-patrimoine
サン・ドニ大聖堂(パリ近郊)Basilique cathédrale Saint-Denis, CMN

大聖堂内の浮き彫りとステンドグラスや、中世の古文書に出てくる西洋占星術の12の星座をその場でデッサンし、文字を組み合わせた作品を作る。無料。要予約。
1 rue de la Légion d’honneur 93200 Saint-Denis
www.printempsdudessin.com/basilique-cathedrale-saint-denis-2
展覧会
Drawing Lab、ふたつの展覧会。
ベラドンナ Belladone

地上階が本とステーショナリーショップのアートホテル「ドローイング・ホテル・パリ Drawing Hotel Paris」の地下にあるギャラリー「ドローイング・ラブ」で開催される展覧会。今年のドローイング・ナウでも紹介されたタチアナ・ヴォルスカが、古代から使われてきた毒にも薬にもなる植物「ベラドンナ」をテーマに、色鉛筆で繊細な作品を描いた(このページ冒頭の作品もヴォルスカ氏による)。4/20迄
子供時代の記憶への旅
Un voyage dans la mémoire d’enfance

ドローイング・ラブでの展覧会第2弾は、日本人の母を持ち、子どもの頃から受けてきた日本文化の影響を作品にも表すティファニー・ブエルの個展。デッサンの春に協賛するスイスの画材メーカー「カラン・ダッシュ」の画材を使い、色鉛筆、アクリル、水彩、パステルなどの作品を見せる。5/1-5/25迄
ドローイング・ホテル・パリ (Drawing Hotel Paris)
(ギャラリー「ドローイング・ラブ Drawing Lab 」はこのホテルの地下)
17 rue de Richelieu 1er Paris
www.printempsdudessin.com/drawing-lab-2
ほかの場所での展覧会
狩猟自然博物館
Musée de la Chasse et de la Nature

(右)Edi Dubien, Sans titre , 2020, aquarelle et crayon sur papier, 110 x 75cm ©Edi Dubien – ADAGP, Paris / Photo ©Musée de la Chasse et de la Nature – David Giancatarina – ADAGP, Paris
限りなく晴れやかになる ー エディ・デュビアン展
S’éclairer sans fin – Edi Dubien
エディ・デュビアンは、少年と動物の交流を優しい視線で描く独学の画家で、近年、人気が急上昇している。動物は皆穏やかで、野生の猛々しさは微塵も感じられない。少年の繊細な心を動植物と画家自身が包み込むような世界にホッとする人が多いのだろう。5/4までの予定だったが、好評のため8/17迄会期延長。
Musée de la Chasse et de la Nature:
62 rue des Archives 3e
www.printempsdudessin.com/musee-de-la-chasse-et-de-la-nature
地方でのイベント
Cap Moderne, site Eileen Gray et Le Corbusier au Cap Martin
アイリーン・グレーとルコルビュジエ〈カップ・モデルヌ建築群〉

地方のイベントの中で惹かれるのは、5月〜6月の4日間、コートダジュールで開かれるもの。モナコとマントンの中間地点にあるロクブリュヌ・カップ・マルタンに建てられたアイリーン・グレイのアトリエ「E-1027」、ル・コルビジェが建てた「カップ・マルタンの休暇小屋(キャバノン)」をガイド、アーティストと訪れ、その場で風景をデッサンするというイベントだ。
「E-1027」と「カップ・マルタンの休暇小屋」、そして1947年にロベール・レブタートによる「エトワール・ド・メール」ほかいくつかの建築群は「カップ・モデルヌ」と呼ばれる。そのうち「カップ・マルタンの休暇小屋」はユネスコ世界遺産。建築ファンならこれを目当てに南仏旅行を企ててもいいかもしれない。(羽)
www.printempsdudessin.com/cap-moderne-site-eileen-gray-et-le-corbusier-au-cap-martin

